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ぜいたくが敵だった戦時中にも、こんな戯(ざ)れ歌が流布したそうだ。1943(昭和18)年にたばこが大幅値上げされた。すると、金鵄(きんし)上がって十五銭/栄(は)えある光三十銭/いまこそ来(きた)るこの値上げ/紀元は二千六百年/ああ一億の民は泣く――奉祝歌の替え歌だった▼金鵄と光はたばこの銘柄。他も軒並み、戦費調達のために平均で6割強も上がった。庶民は泣きながら、お国のためにせっせと紫煙をくゆらせたのだろうか。そして時は移り、「国民の健康のために」という名分を掲げての、今日からの大幅値上げである▼主な銘柄は一気に1箱400円台になった。狙いは功を奏しているようだ。値上げ前から病院の禁煙外来は盛況といい、禁煙グッズも売れ行きを伸ばす。製薬会社の調査では、禁煙にトライすると答えた人は53%にのぼっている▼きっかけを求めていた人が一斉に背中を押されたのだろう。片や、たばこ店は駆け込み特需で大にぎわいを見せた。一段落のあと、目下24%の喫煙率は、さてどれぐらい下がっているだろうか▼歴代政府にとって、たばこは「金づる」だった。簡単にやめられない愛煙家の弱みに乗じるように、小刻みな増税を繰り返してきた。今回、遅まきながらも「財源」から「健康」へ舵(かじ)を切ったといえる。流れはもう変わるまい▼今日から禁煙、と誓った方もおられよう。マラソンに落後はつきものだが、完走者が一人でも多かれと願う。国の懐に貢献するのなら、命を縮めての納税よりも、病のもとを遠ざけて医療費を浮かす方がいい。