北朝鮮の金正日総書記の三男ジョンウン氏が軍大将の称号を受けた。実名が国内で初めて公表され事実上、後継者に確定した。外交的な孤立、国内の経済破綻(はたん)に取り組む力量があるのだろうか。
北朝鮮は二十八日、労働党の代表者会を開き党指導部の人事をした。ジョンウン氏を支える後見体制は整ったようだ。
前日には将軍級の人事が発表され、ジョンウン氏は元帥、次帥に次ぐ「大将」の称号を与えられた。二十代の青年には異例の厚遇だが、軍指導部が支持しているという国内向けの訴えだろう。
ジョンウン氏は政務や軍の実績が足りないが、金総書記は脳梗塞(こうそく)で健康不安を抱える。父が健在なうちに後継者としての地位を固め、党中央委員会の組織と機能を立て直し、党全体で支える体制を築く必要があった。
北朝鮮は金日成主席が建国し、息子の金正日氏が発展させたという独自の世界観を持つ。直系の子孫だけが「革命の伝統」を継承できるという。
軍の人事では金総書記の実妹、金慶喜・労働党部長にも大将の称号が与えられた。女性で軍歴もない。「血統」を誇示して、これからはジョンウン氏の後見役を務めると解釈できる。
三代にわたる権力世襲は、王制国家以外では世界に例を見ない。国民は今度は、後継者をたたえ忠誠を誓うという理不尽な運動を強いられるだろう。
ジョンウン氏は近く党の要職に就き、金総書記を補佐する活動が本格化するはずだ。
だが国を取り巻く状況は実に厳しい。核実験によって経済制裁を受け、国内ではデノミネーションの失敗で経済不安が広がる。国民は慢性的な栄養不良に苦しみ、中国へ逃れる「脱北者」も減る気配はない。当面は幹部たちが支えるとしても、経験不足のジョンウン氏が国家再建の重責をどれだけ果たせるだろうか。
北朝鮮は後継体制を固めるために、米国や韓国との関係を改善して援助を引き出したいところだ。中国との経済協力拡大にも意欲を見せている。一方で、ジョンウン氏の「大将」としての力量を示そうと、軍部が挑発行動にでる恐れもある。
今必要なのは、食糧を確保し国民の生活を向上させることだ。それが実現できなければ、国民はいつか後継者に対して強い不満を持つだろう。
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