<売家(うりいえ)と唐様(からよう)で書く三代目>という江戸川柳がある。初代は財を築くために夢中で働くが、子や孫はその財産を浪費するばかり。三代目になると、落ちぶれて家まで手放すことに。そんな時でも、習った中国風のしゃれた文字で「売家」と書く道楽者をやゆする言葉だ▼祖父の苦労を忘れて、孫の代で財産を使い果たし、会社をつぶす例が多いことから転じ、政権や企業を継承する難しさを端的に言い表すことわざになった▼お隣の国では、金正日総書記の三男ジョンウン氏が父から「大将」の称号を与えられ、事実上の後継者に確定した。まだ二十代の青年だ。金日成氏から三代目の権力世襲となり、社会主義を標榜(ひょうぼう)する国では異例だ▼その人物像は謎だらけである。新聞の顔写真はスイス留学当時らしいが、キャプションは「ジョンウン氏とされる人物」。生年も「一九八三年一月が有力だが、八二年に変更されたという情報もある」(本紙)とはっきりしない▼核実験を実施し、弾道ミサイルの開発を続ける隣国である。その後継者の素顔がまったく伝わってこない体制は、やはり不安を抱かせる▼「先軍(軍事優先)革命の偉大な継承者としての品格と資質を備えられた」。知名度を高めるため朝鮮労働党員が暗記しているという。飢える民衆を直視しなければ、「売家」と唐様で書く「王朝」三代目で終わるだろう。