HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17401 Content-Type: text/html ETag: "1784b4-43f9-79128040" Cache-Control: max-age=5 Expires: Tue, 28 Sep 2010 01:21:42 GMT Date: Tue, 28 Sep 2010 01:21:37 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年9月28日(火)付

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 さすがは奇想の食通というべきか、作家の嵐山光三郎さんが「でこぼこ道の効用」について書いている。出前でとる丼もののうまさの秘訣(ひけつ)は、運んでくる道のでこぼこにあるのだそうだ▼バイクの振動で丼が揺れて汁が飯によくしみるからだという。天丼の場合は小刻みな振動が具合よく、カツ丼は大揺れするのがいいらしい(『カツ丼の道・素人庖丁(ほうちょう)記2』)。ユニークな名文に胃袋は鳴るが、それもこれも、ふっくら炊けたご飯があっての話であろう▼丼物を食するたびにご飯の偉大さを思う。どんな味も自在に体にしみわたらせる。国民食のカレーもしかりだ。〈南風(みなみ)吹くカレーライスに海と陸〉櫂(かい)未知子。海の部分のカレーが絶品でも、陸にあたるご飯がなければ食事は成り立たない▼瑞穂(みずほ)の国と言うけれど、日本人は米食民族というより「米食悲願民族」だったと見る人もいる。前にも書いたが、多くはずっと混ぜご飯を食べてきたからだ。ようやく戦後に悲願を果たすや、皮肉なことに米は余り始めた▼今年も新米の季節だが、米価の下落が著しい。消費者は歓迎だろうが生産者はつらいだろう。「粒々辛苦(りゅうりゅうしんく)」とは、一粒一粒が農家の苦労の結晶という意味だ。経済の原則に感傷は禁物とはいえ、米作りに明日はあるのかと心配になる▼秋田の「ゆめおばこ」、山形の「つや姫」、島根の「きぬむすめ」……。近年の新品種は女性になぞらえた命名が目立っている。稲作の伝統と文化を背負う乙女たちである。前途がでこぼこな難路とならず、幸多きことを願うばかりだ。

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