HTTP/1.1 200 OK Connection: close Date: Sat, 25 Sep 2010 21:11:11 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Age: 0 東京新聞:禍根残す定見ない判断 中国人船長釈放:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

禍根残す定見ない判断 中国人船長釈放

2010年9月25日

 相手を見くびり強気にけんかを挑み、逆にすごまれたらおじけづく。これでは相手だけでなく周りからも笑われよう。残念ながらそれが日本の姿だ。

 尖閣諸島沖の日本領海で、海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件で、那覇地検は公務執行妨害の疑いで拘置していた漁船の船長(41)を処分保留で釈放することを決めた。

 最終的な処分を決めてはいないが、船長は釈放後帰国するため刑事処分を断念することになる。

 那覇地検は釈放の理由について「わが国国民への影響や今後の日中関係を考慮した」と外交的配慮を優先したことを認めている。

◆検察が外交判断?

 仙谷由人官房長官はこれまで事件処理について「粛々と司法手続きを進める」として外交的配慮の介在を否定していた。釈放決定も「那覇地検独自の判断」としているが、検察当局が政権の立場をおもんばかったことは明白だ。

 また、検察が独自の政治的判断で釈放を決定したとしたら、捜査機関が外交上の重大決定をしたことになり見過ごせない。

 船長の釈放決定を中国は受け入れ当面、日中関係の風波は収まるかもしれない。しかし、それを日中関係の大局に立つ賢明な決定とたたえることは到底できない。

 むしろ、日本が実効支配する尖閣諸島への主権をないがしろにした、将来に大きな禍根を残す歴史に残る愚かな決定だ。

 中国は尖閣諸島を自国領と主張、周辺海域を領海とし「日本の法律を適用するのは荒唐(こうとう)無稽(むけい)」(中国外務省)としている。今後、中国の漁船や巡視船が領海として侵入してきたら海上保安庁は、どう対応したらいいのか。

 逮捕されても刑事処分を受ける恐れを感じない中国側は一層、大胆な操業や航行を繰り返し、海保の退去勧告や停船命令をあなどることになろう。それは取り締まりに当たる海上保安官の生命さえ危険にさらすことにもなる。

◆拾った火中のクリ

 中国の漁船は今月七日午前、尖閣沖で違法操業中、海保巡視船から退去警告を受け、船首を巡視船の船尾に接触させ逃走した。その後、追跡を受けた別の巡視船にも船体を衝突させて逃げた。

 四時間近くも逃走した後、停船命令に応じた。政府は対応を協議した上、八日未明に船長を公務執行妨害の疑いで逮捕した。

 外交的配慮をいうなら、政府は海保に身柄のあるこの段階で船長を強制送還することもできた。

 現に二〇〇四年三月、尖閣諸島に中国人七人が上陸した事件で、政府は小泉純一郎首相の靖国神社参拝で緊張した日中関係を憂慮し送検を見送り強制送還した。

 船長の身柄を送検し、日本の司法手続きで処罰するなら、尖閣海域に日本の法律適用を認めない中国政府が激烈な対応をすることは火を見るより明らかだった。

 しかし、民主党代表選のさなか総理官邸を仕切った仙谷長官はあえて船長送検の判断をした。

 それは客観的には中国の海洋進出に対し、尖閣への実効支配を主張する政治的決断にほかならなかった。中国との摩擦を覚悟し火中のクリを拾ったかに見えた。

 中国は東シナ海の春暁(日本名・白樺(しらかば))ガス田への日本側出資をめぐる条約協議を延期し、日本側との閣僚級交流を停止するなど報復措置を矢継ぎ早に打ち出す。

 すると仙谷長官は尖閣とガス田問題は「次元が違う」「ハイレベルで協議をしたい」と弱音を吐き始める。それは中国を「あと一押し」と勢いづかせただろう。

 中国が欧米メディアを使い独占するレアアースの対日輸出禁止の情報を流し、河北省の「軍事管理区域」での日本人四人の拘束を発表すると、政府はもう持ちこたえることはできなかった。大阪地検特捜部検事の証拠隠滅事件という弱みを抱える検察当局は自らの権威を傷つけても政権に「救いの手」を差し伸べたのだろうか。

 中国の強烈な反応をよみきれないまま、司法手続きに委ねた政府の判断がまず問題だ。

 中国の党・軍内には東シナ海の海洋権益確保を求める声がうねりのように高まり、二年後の共産党大会を控え軍の支持獲得に腐心する胡錦濤国家主席は安易な妥協はできない。外交当局は官邸に中国の内情を説明していたのか。

◆外交の欠陥克服を

 中国が外国との対立で激しい攻撃を行い恐怖を与えるまで報復措置を口にするのは常とう手段だ。たじろいで弱みを見せれば、ますます中国は強気になる。

 こうした中国外交の基本について政権には経験を持つ政治家も指南するブレーンもいなかった。今回の事件で明るみに出た欠陥を克服しなければ今後も日本外交は痛ましい失策を重ねるだろう。

 

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