菅政権が新成長戦略で掲げた経済連携協定の促進は、農業の市場開放に内向きの交渉を続けては実現が危うい。日本経済再生には、農産品の市場開放で収入減を強いられる農家の支援が不可欠だ。
日本の経済連携協定(EPA)は韓国や中国に比べ大きく出遅れている。韓国は欧州連合(EU)や米国との交渉が妥結し、中国とも交渉準備に入っている。十月には日印EPAが日本の十二番目の協定として正式合意されるが、日本は輸出の半分を占める中国や米国、EUとは交渉入りのメドすら立っていない。
交渉の遅れは、農産品の輸入自由化に対する農家の反発を避けたい歴代政権が、関税引き下げなどを拒んできたことが主因だ。韓国も自由化には及び腰だったが、農家への財政支援で国民を説得し、今や技術力を駆使した貿易立国への衣替えが急速に進んでいる。
菅政権も戸別補償制度などを土台にして、農家の減収分を補う政策の組み替えを打ち出すべきだ。日本の経済成長には、自動車や電機などを購入する中間所得層が膨らむアジア新興国との貿易拡大が何より求められる。
もはや農民票欲しさにEPA交渉を遅らせては、海外の旺盛な需要の取り込みが細る。内向きを排して広く世界に目を移し、東アジアはもちろん、米、EUも含めたEPAの空白地帯をいかに埋めていくか。これが、早急に取り組むべき日本の課題だ。
大畠章宏・新経済産業相はシンガポール、チリなどの四カ国に、米国や豪州、ベトナム、ペルーを加えて八カ国に拡大する環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加に強い意欲を示した。
TPPは輸出倍増で景気回復を狙うオバマ米大統領が深くかかわり、ゆくゆくは二十一カ国・地域によるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の自由貿易協定と統合し、アジア太平洋を広くカバーする構想を描いているようだ。
日本がTPPに加われば日米経済協力がさらに進み、中国や韓国などともEPA締結の展望が開けるだろう。併せて、アジア市場と日本市場の一体化も追求すべきだ。
十一月に横浜で開かれるAPEC首脳会議の議長は菅直人首相が務める。日本の成長戦略も視野に入れ、いかに会合をリードするか。腰の据わった農業対策を築かねば、農産物の対日輸出を目指す農業国を失望させ、EPA網の構築がさらに遠のきかねない。
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