HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17355 Content-Type: text/html ETag: "17861b-43cb-fa4b2240" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 25 Sep 2010 02:21:09 GMT Date: Sat, 25 Sep 2010 02:21:04 GMT Connection: close
Astandなら過去の朝日新聞天声人語が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
漫画家の長谷川町子さんは25年にわたって、小紙に「サザエさん」を描き続けた。その数は6477回。むろん平らな道ではない。スランプ峠、マンネリ坂、いきぎれ岬……。ご本人によれば、そんな「難所」を数々越えての長い旅路だったそうだ▼相通じるものがあろう。イチロー選手が10年連続の200本安打という高みに登った。大リーグ記録は去年抜き、今や孤高の一人旅をゆく。凡人には分からぬ「スランプ峠」を幾度も越えての、前人未到の快挙だろう▼打者の仕事をシンプルに言えば、投げられたボールがストライクゾーンを通過するのを許さないことだ。その技を、古今を通じて最高に磨いた仕事師に違いない。区切りのヒットも狙い澄ましたようにセンターへ抜けた▼日頃から、階段とスロープのある所なら必ずスロープを歩くと聞いた。万が一にせよ階段は足をひねる恐れがある。ひざや腰に負担もかかる。一事が万事のプロ意識が、36歳の体を20代に引き締める▼スポーツ選手の円熟は、衰退を内に秘めてもいる。だが2632試合連続出場の大リーグ記録を持つリプケン氏は「永遠にプレーできるのでは、と思える」と感嘆したそうだ。鉄人は鉄人を知る、というべきか▼〈シアトルのイチローの秋如何(いか)ならむ箴言(しんげん)のごときそのうつしみよ〉水原紫苑。イチロー語録は名高いが、その姿自体がもはや箴言のようだと歌人は詠んだ。そうかも知れない。「驚かれているうちはまだまだ。驚かれないようになりたい」。かつて自ら語った域に、努力の天才は立つ。