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9月23日付 編集手帳

 〈新しい(ページ)をきりはなつとき/紙の花粉は(にほ)ひよく立つ〉。室生犀星の詩『本』である。ペーパーナイフでページを切り開きながら読む「アンカット」、別名「フランス装」の書物をうたっている◆真新しい紙の(にお)いか、インクの匂いか。いまはフランス装の本をあまり見かけないが、普通に製本された書物でも、花粉にたとえたくなる新刊書の香りは読書好きの人ならば知っている◆谷川俊太郎さんが詩集『詩の本』(集英社刊)のあとがきで「匂い」に触れていた。〈…手にしたときの重さ、匂い、ページを繰るときの紙の手触りなど、(しおり)をはさむというささやかな行為すら、詩の一部だと感じさせるのが詩の本の魅力だろう〉と◆“電子書籍元年”という声も聞こえるなかで迎えた読書の秋である。携帯端末で読む電子書籍にはそれなりの便利さがあるにしても、紙の書籍がもつ匂いの魅力が消えることはあるまい◆自由律の俳人、尾崎放哉に一句がある。〈(さび)しい寝る本がない〉。猛暑を耐え忍ぶのに疲れ、読書どころではない夜がつづいた人もあろう。就寝の友を探しに、散歩の足を書店に向けるのもいい。

2010年9月23日01時13分  読売新聞)
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