尖閣事件で中国人船長が拘置延長されたことに報復し中国は閣僚級以上の対日交流停止を決めた。交流断絶は民間まで広がっている。報復措置の連鎖は対立の解決につながらず事態を悪化させる。
中国は航空路線増便交渉、石炭関係会議を中止、延期。中国の招待で訪中予定の一千人規模の青年訪問団も中国側が受け入れ延期を通知し、日本政府は抗議した。
青年交流は小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝で、首脳相互訪問が五年も断絶した日中関係の打開につながった事業だ。若者たちはどれほどがっかりしているだろう。直前の中止は残念だ。
これに先立ち、中国は東シナ海の春暁(日本名・白樺)ガス田に日本側が出資するための条約締結交渉を一方的に延期してきた。
その後、操業開始に必要なドリル状の機材がガス田に搬入されたのが確認され、日本政府は中国側が掘削を開始した場合は、対抗措置を取ることも検討している。
二〇〇八年六月の東シナ海ガス田の共同開発合意も、日中の戦略的互恵関係を築くことを目指す胡錦濤国家主席の主導で実現した。
尖閣事件で、「ポスト靖国」時代の日中関係を代表する事業が、いずれも中断の憂き目を見た。
中国側には冷静に考えてほしい。尖閣問題は一九七〇年代から日中関係に横たわる問題で一朝一夕に解決することは不可能だ。
今回の事件は中国漁船の船長が海上保安庁の警告に従わず巡視船に接触して逃げ、さらに別の巡視船に衝突して逃走を試みた偶発的トラブルとみられる。
中国側は温家宝首相が船長の即時、無条件釈放を求めるなど外交圧力を強めているが、こうした単純な事件で日中関係全体を揺るがすまでに報復を拡大し、東シナ海の海洋権益をめぐる対立を激化させるのは賢明な対応と思えない。
背景にはガス田共同開発合意に対する中国国内の反発や二年後の共産党第十八回大会に向け党・軍内の支持基盤を固めたい胡主席の意向もあるだろう。しかし長年の戦争や対立を経て確立した日中関係を個別事件や国内の政治事情で左右していいはずがない。
中国が日本に対する抗議デモで暴力行為を封じ込め、尖閣近海での緊張を高める対抗手段に出ていないのは救いだ。冷静さを取り戻し、報復の拡大を控えてほしい。
日本政府も粛々と司法手続きを進め、中国側に過剰な対抗措置を取ることは自制すべきだ。
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