HTTP/1.0 200 OK Server: Apache Content-Length: 35987 Content-Type: text/html ETag: "f640d-127b-4df09200" Expires: Mon, 20 Sep 2010 20:21:15 GMT Cache-Control: max-age=0, no-cache Pragma: no-cache Date: Mon, 20 Sep 2010 20:21:15 GMT Connection: close 9月21日付 編集手帳 : 社説・コラム : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
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9月21日付 編集手帳

 堀口大学は欧州に遊んだ頃、スペインの保養地マラガ産の白ブドウを好んで食べた。ある随筆に書いている。〈マラガの()(どう)はふりそそぐ月光を浴びて育つので、果肉に月の味がある〉。青い闇に、葡萄の房のシルエットが目に浮かぶ◆訳詩集『月下の一群』や詩集『月光とピエロ』で知られる詩人は月を愛した。〈僕は身体が弱かったから、太陽よりも月にあこがれを持っていた〉と、関容子さんの聞き書き『日本の(うぐいす)』(角川書店刊)で語っている◆あすは旧暦の8月15日で「中秋」、明けて23日は満月である。月を()でるのに、いい季節がめぐってきた◆普段は丈夫な人でも、記録ずくめの猛暑はこたえただろう。太陽よりも月にあこがれた詩人に共感する人が、今年ほど多い秋は過去にもあるまい。「消えた高齢者」だ、「多剤耐性菌」だ、「銀行破綻(はたん)」だ――と、うっとうしいニュースがつづいた。心ならずも日々の新聞紙面も、読者の体感温度を上げるお手伝いをしてしまったようである◆マラガのブドウのようにはいかずとも、夜空を仰ぐとしよう。文章に一滴、「月光の味」が宿ることを念じつつ。

2010年9月21日01時21分  読売新聞)
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