HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 19 Sep 2010 20:11:51 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 国のかたちという難問:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 国のかたちという難問

2010年9月19日

 菅直人首相にはもちろん、わたしたちに突きつけられているのが国の「かたち」という難問です。回答は急を要します。若い世代の希望のためにも。

 本社の秋の採用試験で作文の採点を担当しました。就職戦線の厳しさからでしょう、欠席者は少なく、作文の内容からも受験者たちの必死さが伝わってきました。

 今春の全大学卒業生の就職率は60・8%でした。昨春より7・6ポイント落ちて、調査開始以来最大の下げ幅。来春はさらに厳しいとの予測です。本社の採用予定も数百人のうち若干名とか、何とも気を重くさせられる作業でした。

◆留学する余裕がない

 若者たちの内向き志向がいわれます。中国や韓国などアジアの青年に比べて海外への留学希望は少なく、気概や情熱、志の欠如が批判されますが、大学に勤める友人たちは学生たちに深く同情しています。就職が年々厳しくなって、正社員になるのに四苦八苦、留学している余裕も、そのメリットもないのだ、というのです。

 新卒一括採用が産業界の慣行のようになっていて卒業予定者の就職活動は一発勝負の状態。「落ちたら非正規雇用」の恐怖にも襲われているのだともいいます。

 グローバル経済の非情な現実が若者たちに追い打ちをかけます。かつては企業の成長発展は、雇用を拡大し、労働者の所得を向上させ、さらに企業を発展させる幸福の循環を生みました。

 しかし、中国やインドなどの新興国の台頭は企業の生存競争を激化させ生産拠点の海外移転や賃金カットを迫るようになりました。企業の成長発展が幸福をもたらすどころか過酷な労働現場を現出させることにもなってしまいました。残念極まりないことです。

 四〜六月期のGDP(国内総生産)統計は、一九六八年以来四十一年続けてきた世界第二位の経済大国の地位を中国に譲ることを示しました。戦後日本の主導原理でかつては幸福の指数でもあったGDP。二〇一〇年はそのGDP信仰が名実ともに消えた年として後世に記録されることでしょう。

 歴史は大きな転換期です。資源と環境の制約から大量生産、大量消費型の成長は不可能になろうとしています。それは明治の日本が開国で追い求めてきた近代の終わりを示唆します。豊かさとか幸福とは何かの再検討も迫られます。過去のなかに日本の希望の未来が発見できるかもしれません。

◆貧困は存在しない

 九州在住の在野の思想史家渡辺京二氏の「逝きし世の面影」(平凡社ライブラリー)は、幕末から明治にかけて来日した西洋人たちの記録を精査して、滅びた日本の文明をよみがえらせた労作です。「十八世紀初頭から十九世紀にかけて存続したわれわれの祖先の生活はたしかに文明の名に値した」とも書いています。

 日本の自然の美しさは異邦人を感嘆させたようですが、印象的なのは「貧乏人は存在するが、貧困なるものは存在しない」の評価です。金持ちが高ぶらず、貧乏が卑下しない。江戸封建制の世ながら意外なことに人間の尊厳が守られていたようなのです。 

 コラムニストの山本夏彦氏は、ラフカディオ・ハーンを感動させた明治の婦人の短い一生を取り上げて、昔と今と真の貧乏はどちらかと問いかけました。

 下級吏員に嫁ぎ、三人の子どもに産むそばから死なれた薄幸な婦人です。貧乏ながら時々の芝居、寄席、夜桜見物や神詣で。どんな些細(ささい)な親切にも感謝の念を抱き、嬉(うれ)しいにつけ悲しいにつけ歌を詠み、健気(けなげ)で、三番目の子どもを失うと共に力つきるのですが、山本氏は「婦人の謙譲と貧困に驚くとともにこの時代は物心ともに豊かだと気がついた」と記すのでした。

 私たちが社説で訴えてきたのは人間中心の支え合い社会の構築です。若者が働け結婚でき子どもを育てられる当たり前の社会です。そんな安心があって未知なる少子高齢社会やグローバル時代の厳しさに挑めると考えるからです。

 貧しい江戸や明治の世でさえ、人間の尊厳が守られ、心豊かな暮らしがあったのです。支え合い社会が築けないはずがありません。厳しい時代にならなおさらです。

◆信頼される政府たれ

 綱領なき民主党政権が目指す国のかたちは不透明ですが、子ども手当などのマニフェストから推測する限り、支え合い社会の志向はあるようです。

 支え合いには財源と負担の責任があるのはもちろんです。国民は負担に応じる潔さも覚悟もあるにちがいありません。ただ約束した行政改革や無駄削減の徹底を欠いての消費税増税となると、順序と筋が違うと思うのです。国民がちゃんと耳を傾ける、そんな政府の信頼がカギなのです。

 

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