確か、スペインの諺(ことわざ)に曰(いわ)く、<嘘(うそ)には花は咲くが、実はならない>。無論、分かっちゃいる。分かっちゃいるけど、どうにも真実を言い出しにくい時はある。きっと彼もずいぶん悩んだはずだ▼滋賀県長浜市の浅井(あざい)中学校の生徒らが体育祭の中で、ギネス記録に挑んだのは十一日。種目は「二百七十人、二百七十一脚」。転ばず止まらず脚を結ぶ手ぬぐいがほどけることなく五十メートル歩ければ、現在の記録二百六十一人を抜く▼そして本番は五十七秒少しでゴール。誰の目にも成功と映った。大歓声が上がり、歓喜が渦巻いた。ああ、ところがである。実は、条件の一つが達成されていなかった▼それが分かったのはほかでもない。挑戦後の昼食休憩すぎ、一人の男子生徒が応援に来ていた母親と一緒に本部テントを訪れ、自分が結んだ手ぬぐいがゴール前にほどけたと申し出たからだ▼外部の立会人たちの目でも、ギネス申請用のビデオ映像でも確認できなかったから、今度は学校側が悩んだ。その申告も添えて申請しようということにもなりかけた。だが、それでは彼の勇気ある申告が無になる。結局、申請しないと決めた▼もしギネス記録になればそれはそれで花だろう。でも、それより美しい実がこの学校の校庭に実った気がする。「正直」を意味する英語HONESTYの語源はHONOR、すなわち「名誉」である。