民主党代表選で菅直人首相が再選された。「ねじれ国会」は前途多難だ。政権交代の「原点」を忘れず、国民のための政策実現に死力を尽くしてほしい。
菅首相と小沢一郎前幹事長との一騎打ちの行方を決定づけたのは党員・サポーター票だった。
ポイント数を見ると、党員らの票は菅氏二百四十九ポイントに対し、小沢氏五十一ポイントと大差がついた。「菅氏優勢」とする世論調査結果がほぼ反映された形だ。
小沢氏にとっては、自身の「政治とカネ」の問題をめぐる説明が党員らの理解を得るには至らなかった、ということだろう。
重い議員票の意味
とはいっても、菅氏が積極的に支持されたと考えるのは早計だ。
菅氏が支持された理由はさまざまだろうが、街では「首相を三カ月で交代させるべきではない」との消極的支持も多く聞かれた。
直近の共同通信世論調査で、菅内閣支持の理由で最も多いのは「ほかに適当な人がいない」だ。
国会議員票は菅氏四百十二ポイント対小沢氏四百ポイント。議員数でいえば二百六人対二百人で、民主党議員の約半数が小沢氏支持に回った。
有権者は民主党政権に、自民党とは違う政治の実現を託した。
その柱は官僚主導から政治主導への転換、無駄な事業の見直しによる財源捻出(ねんしゅつ)、緊密で対等な日米関係であり、それは民主党が目指す「国のかたち」でもあった。
しかし、菅氏は七月の参院選惨敗のショックからなのか、理念・政策を語ることをやめ、急激な円高・株安に対して強いメッセージを出すこともなかった。
議員票の拮抗(きっこう)は、菅氏が政権交代の原点を忘れ、官僚依存、増税路線、対米追随に戻りつつあるという民主党議員の危機感の表れであり、原点回帰と閉塞(へいそく)感打破を小沢氏に託そうとしたのだろう。
政治主導を現実に
菅氏はまず、民主党国会議員の約半数が小沢氏支持に回ったことの意味を重く受け止め、襟を正して国民のための政策実現に全力を傾注しなければならない。
直ちに取り組むべきは雇用対策だ。菅氏は代表選期間中「一に雇用、二に雇用、三に雇用」と強調し続けた。
「雇用が広がれば所得が増え、経済が潤い、社会保障の充実にもつながる」という、菅流の「第三の道」だが、雇用創出には経済活性化が先というのが定説だ。
菅氏は、求職と求人のミスマッチ解消による雇用創出を主張してきた。それだけで第三の道が実現するほど甘くはない。
菅内閣は先週、デフレや急激な円高に対応するために九千億円規模の財政支出を伴う追加経済対策を決定した。それだけで十分か否かを検証し、必要ならばさらに経済対策を練り直す必要がある。
間近に迫る予算編成は、民主党政権が政治主導を確立できるか否かの試金石だ。
各省庁一律10%を削減する菅内閣の手法は、小沢氏から「自民党政権時代から続く官僚主導のやり方」と批判された。
菅氏は「十二月の予算案を見て判断してほしい」と反論したが、その言葉に違(たが)わぬよう、政治主導を形にして国民に示してほしい。
沖縄県の米軍普天間飛行場返還問題も難問だ。菅氏は、名護市辺野古沿岸部に代替施設を建設する鳩山前内閣当時の日米合意を引き継ぐ考えを表明したが、地元は受け入れ拒否姿勢を強めている。
県内移設一辺倒では沖縄県民の基地負担軽減は望めまい。事態打開へ、沖縄や米側と突っ込んで話し合う姿勢が必要だ。
何よりも「ねじれ国会」という最難関が待ち受けている。
民主、国民新両党の連立政権は参院で過半数に達せず、衆院でも法案を再可決できる三分の二以上の議席がない「真性ねじれ」だ。
予算案は衆院議決の優越で成立するが、関連法は成立しない。予算が執行できなければ、政権はたちまち行き詰まる。
菅氏には、自ら汗をかき、野党側の懐に飛び込んで理解を求めるような迫力がほしい。野党側も国民のための政策実現なら積極的に協力すべきだ。その過程がねじれ時代の民主主義を強くする。
空白埋める気概を
菅氏は当選あいさつで「約束したようにノーサイド」と宣言し、小沢氏も「一兵卒として頑張っていきたい」と語った。
党を二分する激しい戦いではあったが、選挙後に両陣営の間にしこりが残り、政策実現の障害になるようなことがあっては困る。
代表選の政治空白を埋めるためにも、菅氏は挙党態勢づくりを急ぎ、政策実現のスピードアップを図る気概を見せてほしい。日本を立て直すためなら、激しい論戦も無駄にはなるまい。
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