「プレッシャーに負けた」。オリンピックや国際大会の晴れ舞台で、日本の選手が力を出し切れずに敗れた時、マスコミでよく使われた決めぜりふだ▼中には、勘違いする人もいたのか、「プレッシャーはほんとに強いのう。どこの国の選手かえ?」と言うお年寄りがいたという笑い話もある(外山滋比古著『日本語の作法』)▼いま、プロスポーツ界で最もプレッシャーと闘っているのは、大相撲の横綱白鵬だろう。きのう時天空を下し49連勝。きょう元横綱千代の富士以来の50連勝に挑む▼入門時の体重は、新弟子検査の最低ライン七五キロを下回る六八キロ。モンゴルから来たやせっぽちの少年がなぜ横綱になれたのか。白鵬自身は、四股(しこ)と鉄砲、すり足という基本の稽古(けいこ)を地道に続けたことだと振り返っている(『相撲よ!』)▼伝統的な稽古でついた筋肉は柔らかく、ウエートトレーニングでできた筋肉は硬い。当時、角界は筋トレ全盛時代だったが、師匠は猛反対したという。大横綱の誕生の裏には、師弟の強い絆(きずな)があった▼日本のビールが大好きで、映画「男はつらいよ」のファン。兄弟子から「日本人よりも日本人の心がわかるやつだな」といわれたモンゴル出身の青年が、不祥事続きの「国技」の屋台骨を支えてきた。プレッシャーを感じさせない土俵ぶりを見ると、50連勝は通過点にすぎないのかもしれない。