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天声人語

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2010年9月14日(火)付

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 懐かしい「ガチョーン」のセリフは、もとは麻雀(マージャン)の席の口癖だったという。なるほど、いい牌(パイ)を引いたときも、相手を上がらせてしまったときも口をつきそうだ。それを、追いつめられて尻まくっちゃうギャグに使おうよ、と電波にのせると大流行した▼とにかく人を楽しませたがる人だった。自宅が焼けたとき、愛想なしでは火事見舞いの仲間に申し訳ないと、庭にテントを張って麻雀卓を用意した。友人を絶句させ、しかも自身は大勝ちしてご満悦だったというから、コメディーを地でいく▼78歳で亡くなった谷啓さんは、おかしさを売る人たちからも面白さで一目置かれた。テレビの草創期を風靡(ふうび)したクレージーキャッツの人気者は、人なつこい丸顔と、ほのぼのとした持ち味が、晩年まで変わることはなかった▼近年はNHKの教養番組「美の壺(つぼ)」の案内役で、落ち着いた味を醸していた。和服が似合い、書画を愛(め)でても、焼き物をなでても、軽妙洒脱(しゃだつ)で味わい深かった。音楽と笑いから出発した芸能人生の、見事な成熟でもあったろう▼谷さんは昭和7年の生まれ。他のクレージーキャッツのメンバーも全員昭和ヒトケタだ。戦争から解き放たれ、自由なジャズに入れ込み、進駐軍を巡って芸を磨き、テレビを席巻した。その死去で7人中5人が彼岸に渡り、戦後という時代がまた遠ざかる▼「すでにあの世へ逝ったメンバーたちに『谷を迎えてやってくれ』と祈った」という盟友犬塚弘さんの話が切ない。晩年のご隠居然とした味わいを、もうしばし画面で眺めたかった。

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