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急激に進んだ円高に促されるように、菅政権が追加経済対策を決めた。家電、住宅のエコポイント制度の延長などを盛り込み、今年度の予備費約9200億円を投じる。自民党や公明党な[記事全文]
法科大学院修了者を対象とする新司法試験の合格発表があった。8年前の閣議決定で「合格者数を3千人程度とすることを目指す」とされた年だったが、実際は2千人余にとどまった。合[記事全文]
急激に進んだ円高に促されるように、菅政権が追加経済対策を決めた。家電、住宅のエコポイント制度の延長などを盛り込み、今年度の予備費約9200億円を投じる。
自民党や公明党などの野党は、規模が小さいと批判し、4兆〜5兆円を投入するよう求めている。
たしかに規模は大きくない。しかし日本の潜在供給力に対する需要不足は25兆円にものぼるから、財政出動で埋めようとしても無理だ。先行き不透明とはいえ、景気が緩やかに回復していることも考えれば、いま大規模な措置が必要とは考えにくい。
目先の浮揚効果より、新成長戦略に盛り込まれた中長期的な課題にひとつでも多く着手することを重視すべきだ。今回の経済対策は、菅直人首相が掲げる「強い経済・強い財政・強い社会保障」を実現する布石として意味があるのではないだろうか。
その意味では、対策に工夫が見られる。環境分野の工場立地を促す補助金、既卒3年以内の若者の採用への奨励金の創設、訪問看護ステーションの開業要件の緩和などだ。働く場を増やし、より多くの雇用を生み出せるようにする政策を大胆に、かつ根気強く打ち出していってほしい。
いまのような、世界規模で複雑な要因によって起きた不況を追い払う妙案は、どこの国にも見当たらない。欧州各国はギリシャ危機の反省を踏まえて緊縮財政に走っている。米国は逆に景気刺激をつづけることを重視し、オバマ大統領が今後10年間で総額15兆円規模の追加経済対策を発表した。
日本は景気刺激を続ける財政余力はないが、長期化するデフレが経済や社会の機能を次第に弱めていくことが心配されている。そこで菅氏が提唱したのが、増税で生み出した財源を雇用創出に重点的に投じて需要を増やす「第3の道」だ。経済対策はその一歩として意味がある。
成長戦略を進めるため、首相や主要閣僚、民間有識者が参加する「新成長戦略実現会議」が発足したことも評価したい。政策の方向性がぶれないよう監視し、省庁に確実に実行させ、政策の事後チェックをして軌道修正する。小泉政権の経済財政諮問会議のような役割を担ってほしい。
それにしても、なぜ景気対策が必要になったのか。菅政権は参院選の敗北で政策の推進力を低下させ、民主党代表選への対応に追われている。円高は、そういう政治の弱みが市場からつけこまれたという側面もある。
首相が次々と代わる日本の政治は、海外から奇異に見られている。そのことを考えれば、代表選が終わりしだい、すみやかに政策の方向性を定めて実行する姿を内外に見せることこそ最大の景気対策だといえる。
法科大学院修了者を対象とする新司法試験の合格発表があった。8年前の閣議決定で「合格者数を3千人程度とすることを目指す」とされた年だったが、実際は2千人余にとどまった。
合格率も25%となり、制度発足以来下がり続けている。大学院間の実績格差の固定化や進学志望者の減少、それに若手弁護士の就職事情の悪化も加わり、法曹養成問題は大きな曲がり角にさしかかっている。
法科大学院のありようをはじめ、軌道修正は避けられない。そこで忘れてならないのは「司法を身近で頼りがいのある存在にする」という、司法制度改革の原点にある考えである。
目標はどこまで達成されただろうか。法曹人口を急増させたのは誤りだったとする意見が弁護士会などで勢いを増しているが、本当にそうか。
この間、容疑者段階から国費で弁護士がつく仕組みや裁判員制度が始まり、市民の紛争解決を応援する法テラスが開設された。弁護士過疎の解消も進む。どれも従来の法曹人口では対応できなかったものばかりだ。
「3千人」を墨守する必要はない。だが、弁護士の飽和状態を憂う声が上がる一方で、「弁護士が見えない」と嘆く市民は少なくない。このギャップの原因を解き明かす必要がある。
期待される法律家の姿を考えるうえで、法テラスで働く弁護士の経験談は示唆に富む。地域の貧困者、高齢者、障害者らに寄り添い、生活保護や破産申請などの手助けもし、悪徳業者と渡り合う。行政の垣根にとらわれず「法律を武器とするコーディネーター」として活動する様子に、役所や福祉関係者も大きな信頼を寄せる。
その一人が語った「私たちは、そこそこ小金を持ち、知恵がある人を市民と言ってきただけで、本当に法的ニーズがある人々を見ていなかったのではないか」という言葉は重く響く。
これは一例に過ぎない。活動領域を法律事務所や法廷の外に広げ、市民や企業・団体の中に飛び込んでこそ見えてくる需要がまだあるはずだ。
もちろん弁護士の熱意と善意に期待するだけでは行き詰まる。問題意識を共有し、国や自治体で必要な予算をつけるなどして、実効ある「法の支配」を行き渡らせなければならない。
気になるのは、経済界や労働界、消費者団体など司法制度改革を唱えてきた人々の声が最近あまり聞こえてこないことだ。この先、法曹人口はもちろん、法科大学院の再編や司法試験・修習の見直しの要否など、多くの利害や思惑が絡む問題を検討していかなければならない。内向きの議論にならぬよう外からの監視と支援が不可欠だ。
法律家は「社会生活上の医師」と位置づけられる。多くの国民が関心を寄せてこそ、明日の姿が見えてくる。