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19世紀ロシアの文豪、ゴーゴリの「検察官」は腹ゆすられる喜劇だ。印刷の際、植字工や校正係が笑い転げて仕事にならなかったとの逸話を残す。不朽の名作は、冒頭に辛辣(しんらつ)な俚諺(りげん)を置いて始まる。岩波文庫から引くと、「自分のつらが曲がっているに、鏡を責めて何になろ」▼つまり、自分の醜態を省みず相手を責める愚をいさめる。要はそんな手合いがのさばっていたのだろう。さて、この「鏡」を「判決」に置きかえれば、大阪地検に当てはまろう。検察捜査のゆがんだ姿が、大阪地裁の判決に映し出された▼郵便割引制度をめぐって偽りの証明書発行を指示した、というのが厚労省の元局長、村木厚子さんの罪状だった。判決はそれを明快に退け、無罪を告げた。検察は、事件が「創作」だったと言われたに等しい▼村木さんの部下だった被告らから供述をしぼり出し、自作の筋書きに都合よく添い寝させる。あきれたプロの技である。その果ての、まれにみる完敗は、検察史の大きな汚点として刻印されよう▼密室で虚構を繰り返す検事に、「魔術にかけられそうな怖さがあった」と、否認を貫いた村木さんは振り返る。力関係は絶対だ。並の人だったら検事の描くストーリーに身を沈めていたかも知れない▼文字どおりのキャリアウーマンで、逮捕された去年6月、舛添厚労相は「働く女性にとって希望の星だった」と語っていた。ひとりの人間が人生をかけて得た輝きを、理不尽に射落としたのである。鏡の中の曲がったつらを深く恥じて、検察はもう手を引くべきだ。