民主党代表選の立会演説会が札幌で開かれた。東京、大阪に次いで三回目。両候補は理念・政策の訴えに熱を込めたが、「ねじれ国会」にどう臨むのかを街頭でついに語らなかったのはなぜなのか。
いつもは観光客でにぎわう大通公園が聴衆で埋まった。主催者発表で約一万人。東京、大阪と比べて人出が多いのは、疲弊する地方経済再生の具体策を候補者本人の口から聞きたかったためだろう。
両候補の演説内容からは、そんな聴衆の期待に応えようとする真摯(しんし)な気持ちは感じられた。
最初にマイクを握った小沢一郎前幹事長は、地方経済の再生には財源と権限の移譲が必要だと強調し、高速道路建設の財源と権限を北海道庁などに移すと訴えた。
一方、菅直人首相は、ビザ発給要件などの緩和が北海道を訪れる中国人観光客の増加につながった事例を挙げて、規制緩和で地方経済は活性化できると強調した。
両候補の政策の優劣をにわかに論じることは難しいが、いずれの政策の実現にも、与党が参院で過半数に満たない「ねじれ国会」では、野党側の協力を得なければ不可能であることに変わりはない。
にもかかわらず両候補は三回の街頭演説会で、ねじれ国会への対応に全く触れようとしなかった。
確かに両候補は共同記者会見や討論会、インタビューなどで、野党側と話し合う姿勢は示したが、自ら積極的に語ったわけではないし、それがねじれ国会を乗り切る知恵とは、とても思えない。
日本をどんな国にしたいのか、目指す「国のかたち」を語ると同時に、その実現への道筋を示さなければ、どんな高邁(こうまい)な理念・政策を掲げようとも画餅(がべい)に帰す。
野党自民党も幹事長に石原伸晃氏、総務会長に小池百合子氏を起用するなど執行部を一新し、与党追撃の態勢を整えた。
菅、小沢両氏のどちらが首相に就いても、生半可な覚悟では、ねじれ国会は乗り切れず、政権運営はすぐ暗礁に乗り上げてしまう。
札幌の演説会で街頭での訴えは終わり、今後は両陣営による国会議員票や地方議員票の獲得争いが熾烈(しれつ)さを増すだろう。
その際、野党側の協力をどう取り付けるのか、その知恵と力量、覚悟がどれほどなのかも、投票の際に判断材料に加えてほしい。
代表選が終われば程なく臨時国会が始まり、民主党は厳しい局面に立たされる。代表選の熱狂に酔いしれる余裕はないのである。
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