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天声人語

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2010年9月10日(金)付

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 ハリウッド映画にテロリスト役で出た中東出身の俳優を、同僚記者がかつて取材した。この俳優は撮影中、ある場面の削除を製作側に申し入れたことがあった。旅客機の乗っ取りに成功して朗々とコーランを読み上げるシーンだった。9・11のテロが起きる前の話である▼人権団体の助力もあって台本は変更され、完成した映画にそのシーンはない。「なぜ悪人とイスラム教をすぐに結びつけるのか」と、俳優は憤っていたそうだ。米社会のイスラム教への偏見はかねて根深い。テロの後、憎悪ともいえる感情となって渦巻いたのはご承知の通りである▼それでも聖典のコーランを集めて燃やす話は、聞いたことがない。フロリダ州のキリスト教会が、テロから9年になる11日に計画し、波紋が世界を駆けている。イスラム世界には激しい抗議が広がりだした▼信者は50家族ほどの小教会だが、世界に向けて「コーランを燃やせ」と呼びかけてもいる。「書物が焼かれる所では、ついには人間も焼き払われる」。ドイツの詩人ハイネの言葉を引くなどして欧州からも非難が上がっている▼テロのあと、米国でイスラム系住民は不穏な空気にさらされた。ニューヨーク大の教授は、「社会が自由や寛容を失ったら、それこそテロリストを勝利させることになる」と案じていた。憎悪が憎悪をあおる愚挙は、まさに思うつぼだろう▼『悪魔の辞典』のビアスによれば、宗教とは希望と恐怖を両親とする娘だそうだ。不寛容という乳母の手で醜く育った娘は、いずれであれ世界を不幸にする。

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