HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17320 Content-Type: text/html ETag: "354124-43a8-6d1f38c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Wed, 08 Sep 2010 20:21:46 GMT Date: Wed, 08 Sep 2010 20:21:41 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年9月9日(木)付

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 もうずいぶん前、米国国境に近いメキシコの観光地で、土産物屋のおじさんに「カカリチョー」と声をかけられた。何のことか分からず行き過ぎると、今度は「シャチョー」ときた。それでわかった。初めは「係長」と呼んだのだ▼言葉は日本の団体客に教えられたそうだ。以来、日本人と見れば「カカリチョー」とやる。「シャチョー」よりもウケが良いという。「ブチョー」も「センム」も知っていて、偉い順に正しく並べて得意そうに笑った▼遠い旅の一コマを、産業能率大学の今年の「新入社員調査」を読んで思い出した。管理職志向が過去10年で最高になったそうだ。最終目標とする役職は部長級が一番多く、次いで役員、社長、課長と続いた▼係長は最少で1.4%だった。部長のイスは出世欲と現実感の接点なのだろう。課長では軽く、社長は遠い。読みながらふと、詩人中桐雅夫の「会社の人事」の一節が頭に浮かんだ▼〈「絶対、次期支店次長ですよ、あなたは」/顔色をうかがいながらおべっかを使う/いわれた方は相好をくずして/「まあ、一杯やりたまえ」と杯をさす〉▼〈「あの課長、人の使い方を知らんな」/「部長昇進はむりだという話だよ」……〉。調査が示すのは、ほろ苦くもいとおしい日本的光景への、新人諸氏の心情的回帰だろうか▼厳しい就職活動をくぐったゆえか、転職を挫折と思う割合も増えていた。勤め上げる、という言葉は美しい。だが新天地をめざす気概は頼もしい。どの道もどこかへ通じている。そう構えるぐらいが荷は軽い。

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