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気の毒にも「腸チフスのメアリー」と呼ばれた女性が、20世紀初めのニューヨークにいたそうだ。7年間に6軒で家政婦をするうち、7回も腸チフス流行の感染源になったというから驚く。吉川昌之介さんの『細菌の逆襲』という本に書かれている▼この病気は無症状の保菌者や、病後保菌者が多いといわれる。彼女は計51人に直接感染させ、二次感染は千数百人にのぼったそうだ。とうとう離れ島へ送られたと聞けば、古ぼけた昔話に思えるが、細菌の脅威は今も消えてはいない▼抗生物質の効かない「多剤耐性菌」をめぐるニュースが続いている。帝京大病院で大人数の院内感染が起きたと思ったら、独協医大病院では患者から新型の大腸菌が検出された。後者は近年インドで見つかった菌の初上陸だという▼ペニシリンに始まる抗生物質は「20世紀の奇跡の薬」といわれる。多くの命を救ってきた。しかし細菌も、たまたま耐性を得たものは生き残り増殖する。その進化と新薬開発のいたちごっこが延々と続いている▼切り札といわれる薬さえ効かない「スーパー耐性菌」も見つかっている。つまりは人と細菌の、生物間の生存競争なのだという。あなどれぬ敵との果てしない競争である▼要は予防だが、医療従事者は手洗いが大切だそうだ。これは暮らしの中でも、もっと広まらないだろうか。素朴ながら効果は大きい。暑さで忘れているが、遠からずインフルエンザウイルスの季節も来る。お互いに、知らず知らず「メアリー」にならない用心を、まず心がけたいものだ。