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民主党の国会議員に望みたい。今回の党代表選は事実上、日本の首相選びである。国民に代わって選択する極めて重い責務を委ねられている。その自覚を持って、自分自身で悩み、投票先[記事全文]
厚生労働省は、子宮頸(けい)がんの予防に国として取り組む方針を打ち出した。来年度予算の概算要求にそのための150億円が盛り込まれた。大いに歓迎したい。[記事全文]
民主党の国会議員に望みたい。
今回の党代表選は事実上、日本の首相選びである。国民に代わって選択する極めて重い責務を委ねられている。その自覚を持って、自分自身で悩み、投票先を決めてもらいたい。
残念なことに、責務への自覚が足りないのではないかと疑われる発言が、いかにも無造作に飛び出している。
「私は小沢一郎さんに、総理にまで導いていただいた。ご恩返しをすべきだ」という鳩山由紀夫前首相の発言が典型である。
一個人としてなら恩返しは美徳だろう。しかし、一国の最高指導者を義理や私情で選ばれたのでは国民はかなわない。自分だけならまだしも、グループの仲間にも同調を呼びかけている。
鳩山氏に限らず、選挙で世話になったから、などと聞かされると、あまりに内向きの発想に驚かざるをえない。
理想論だけでは政治はできない。そんな一面があることは否定しない。
首相になるには数が必要だ。そのために自民党の派閥領袖(りょうしゅう)は資金集めに奔走し、選挙やポストで便宜をはかり、兵を養ってきたではないか、と。
しかし、日本の政治はその改革の歩みの中で、「数の論理」「派閥の論理」を乗り越えようと試みてきた。
中選挙区制では一選挙区に同じ党の候補が複数立ち、派閥対抗で争った。小選挙区制に改めれば党と党の戦いになる。サービス合戦は政策競争に変わり、公認やカネ配りの権限も執行部に移り、派閥の存在理由は薄れていく。
かつて政治改革はそんな絵を描き、現実もそう変わりつつある。
にもかかわらず、党内に巨大な議員集団を作り上げたのが小沢氏である。
民主党と合流したころの自由党は30人ほどだったが、いま小沢グループは約150人。代表や幹事長として選挙や資金の実権を握り、党の力を背景に手勢を拡大していく姿は、改革の狙いからは明らかに外れている。
幸いどのグループにも、上の方針をうのみにせず自分で考えようとしている人々がいる。態度を公表していない議員らが両候補の公開討論会を近く開くのも、それぞれ判断材料を得るためだろう。当然のことだが評価したい。
支持者に意見を求めながら、共に悩んでいる議員もいる。それも歓迎だ。恩返しというなら、世話になった党の幹部よりも、一票を投じてくれた選挙民を大切にする方が筋が通る。
いっそこの際、各グループこぞって自主投票を決めてはどうか。民主党への評価が高まるに違いない。
本来なら、総選挙を通じ有権者が直接、政権党と首相を選ぶ時代である。派閥の論理とはきっぱり縁を切ろう。
あくまで有権者に基盤を置きつつ、自らの頭で考え投票する。それでこそ議員は「国民代表」の名に値する。
厚生労働省は、子宮頸(けい)がんの予防に国として取り組む方針を打ち出した。来年度予算の概算要求にそのための150億円が盛り込まれた。
大いに歓迎したい。
子宮頸がんは毎年、日本全国で1万5千人、とりわけ20〜30代の若い女性が発症し、約3500人が命を落としている。助かっても子宮を摘出して子どもを産めなくなるなど、身体的にも精神的にも負担は大きい。
ヒトパピローマウイルス(HPV)が原因とわかり、ワクチンもできた。6〜7割予防できるとされ、日本でも昨秋承認された。今や、予防できるがんなのである。
試算によれば、12歳の女児全員への接種に210億円かかる一方、将来の医療費など190億円の節減につながる。働き盛りを失う損失も防げる。社会全体が得る経済的な効果も大きい。
しかし、任意接種で5万円前後の費用がかかる。普及は進んでいない。
小学校での集団接種を始めた栃木県大田原市など、費用を全額公費で負担したり、一部を助成したりしている自治体はまだ全体の1割以下だ。
厚労省の計画では、中1〜高1の女子を接種対象にし、市町村に費用の3分の1を補助する。
だが、最近の自治体の厳しい財政を考えれば、残る3分の2の費用の負担が重く、一斉接種を始められない市町村も多そうだ。
多くの命にかかわる病気なのに、このままでは、地域によって予防の格差ができてしまう。
先進諸国には公費負担制度が多い。英国、イタリア、オーストラリア、マレーシアといった国々や米国の一部の州は全額が公費負担だ。フランスのように医療保険で大半がカバーされる国もある。12歳前後の1、2年を優先接種の対象にして一斉に行われている。
こうした国々では、併せて、がんを早期に見つける検診にも力を入れている。ワクチン接種とうまく組みあわせれば、9割以上防ぐことも可能で、ほぼ根絶できるといっていい。
日本でも、同様の進め方が必要だろう。やはり公費負担で、たとえば中1を優先年齢としてワクチンを接種し、20歳以上では必ず検診を受けるようにする。長期的な視点で効果の追跡もできるようにすることが大切だ。
日本では、予防接種法に基づく公費による定期接種のワクチンは日本脳炎やジフテリアなど8種にとどまり、先進国の水準からみると極めて少ない。
インフルエンザ菌b型(ヒブ)と肺炎球菌のワクチンは、世界中で小児の命を救っている。日本でもやっと承認されたものの、任意接種のために高い費用が普及の壁になっている。
合理的な投資で若い命を守れる策がある。最優先の課題だろう。