民主党代表選の演説会が東京・新宿駅西口で行われた。初の街頭での訴えだ。国民生活をどう立て直すのか、炎暑の中、多くの聴衆が耳を傾けていたが、両候補は国民の疑問に答えたのであろうか。
最初に宣伝車上に立った小沢一郎前幹事長は「国民の関心がある経済、景気の問題について私の考えを述べたい」と切り出し、一兆円の追加経済対策、市場介入と海外投資による円高対策、地方への補助金の一括交付金化を訴えた。
それらは、一つの解決策かもしれないし、小沢氏の演説からは政権交代への国民の期待に応えようという意気込みも伝わってくる。
ただ国民が今、知りたいのは、官僚の抵抗をはねのけて、それらを本当に実現できるのかだ。
予算組み替えだけで財源を確保できるのか、財政をどう立て直すのかの疑問にも答えていない。
さらに「政治とカネ」に触れずじまいだったことも物足りない。小沢氏の主張は主張として、それで国民から選ばれた検察審査会が納得するだろうか。丁寧に説明し続けるしかないのだろう。
続いて車上に立った菅直人首相は、金権政治を追及する市民運動家から首相にまでなった自らの政治経歴を振り返り、「原点を忘れず頑張り抜く」と強調した。
しかし、全体として菅氏の演説は具体策を欠くものだった。
予算の一律10%削減が官僚主導の予算編成ではないかとの小沢氏の指摘にも「十二月に決定する来年度予算案を見てから判断をしてほしい」と答えるだけ。消費税への言及もなかった。
限られた時間、現職首相として軽々には発言できないという事情を差し引いても、雇用はどう確保し、日本を覆う閉塞(へいそく)状況を打破するのかが全く見えてこない。
これでは国民の疑問に何も答えていないに等しいのではないか。
民主党代表選は一政党の選挙だが、同時に首相選びでもある。
多少の政治空白ができても代表選をやる意味は、民主党に自民党と違う政治を行う意思と能力があるのかを見極めることだ。
だからこそ、両候補は自らの政治理念・政策を党員・サポーターのみならず、国民全体に明確に語り、疑問に答える必要がある。
演説会は今後、大阪、札幌でも行われる。新聞やテレビなどを通じて国民に語りかける機会もあるだろう。両候補は最後まで国民の疑問に真摯(しんし)に向き合い、それに答えることを忘れるべきではない。
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