日銀が金融緩和にようやく重い腰を上げる一方、政府も経済対策を決めた。円高と経済低迷の根本にあるのはデフレだ。政府は物価安定目標を掲げて、日銀とともにデフレ脱却に全力を挙げよ。
遅きに失した追加緩和である。内容ももの足りない。年0・1%の低金利で貸し出す新型オペの貸付枠を三十兆円に拡大する一方、期間六カ月ものを追加したにすぎない。金融市場はこの程度の緩和策はとうに織り込んでおり、効果も限定的だろう。
日銀がいったん決めた政策ラインを市場に追い込まれ、政府に催促される形で変更するのは白川方明総裁になってから三度目だ。
最初は二〇〇八年十月。米欧などが一斉に協調利下げしたのに、日銀は動かず円高が加速した。昨年十二月には直前に社債やコマーシャルペーパー(CP)の買い取り終了を決めたが、政府のデフレ宣言に押される形で緩和策に逆戻りするドタバタ劇を演じた。
今回はといえば、十日に米国が緩和に動くのは十分に予想されながら、日銀はなにもせず金利差が縮小して円高・株安を招いた。
景況感は一気に冷え込み、多くの大学生や高校生が就職先を決められないでいる。企業の廃業や「ニッポン脱出」も進行中だ。
白川総裁は当時の自民党政権が提案した人事に民主党が不同意を繰り返した末、異例な形で誕生した。その点を割り引いても、わずか二年弱の間に三度も経済情勢と政策の判断を誤り、景気低迷を招いてしまった実績をみれば総裁失格と言わねばならない。
日銀法で総裁の地位は守られているが、政府と国会は白川総裁に対して、この間の政策判断ミスをどう考えているのか、十分な説明を求めるべきだ。
菅直人首相は雇用確保を重視した経済対策をまとめた。だが、デフレを放置したままで成長は見込めず、雇用も生まれない。まずはデフレ脱却が最優先である。
そのために政府は物価安定をもはや日銀任せにせず、自ら消費者物価上昇率で3%程度の物価安定目標を掲げるべきだ。目標があって責任も明確になる。
政府が独自に目標を設定し、達成手段を中央銀行を委ねた国は英国などに例がある。中銀の独立性とは本来、手段についての話にすぎない。目標を数値で示し、達成できなければ日銀に説明を求める常設の枠組みが必要である。
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