HTTP/1.1 200 OK Date: Sun, 29 Aug 2010 21:12:14 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 歴史とリーダーシップ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 歴史とリーダーシップ

2010年8月29日

 政治家のリーダーシップが問われています。歴史の中で政治家に求められる資質とは何でしょうか。どういう人物を国民は望むべきなのでしょうか。

 リーダー論は、欧米でも最近盛んだったようです。英国では首相と連立相手の副首相がともに四十三歳と若い政権が生まれ、米国ではあのオバマ大統領の人気が陰りぎみです。

 英国の政権交代のすぐ後、世界的ベストセラー「大国の興亡」の著者で歴史学者のポール・ケネディ氏が英字紙(インターナショナル・ヘラルド・トリビューン)に寄稿していました。題は「歴史はリーダーがつくるのか、それとも出来事がつくるのか」。

 首相チャーチルの功績

 彼が例示に持ち出したのは、英国の戦勝首相チャーチルでした。演説や言葉の修辞の才能は素晴らしかったとまず評しています。それがなえがちな兵士も国民もおおいに奮い立たせたのでした。

 寄稿はチャーチルの行動力にも及んでいます。近くはドイツの爆撃に遭ったロンドンの貧困地域へすぐに行って慰め、遠くはエジプト駐留部隊を電撃訪問し励ましています。この種の現地訪問は、今では宣伝臭が強くなっていますが(だから悪くすると点数稼ぎに見られることもあるのですが)チャーチルの時代には多くはなかったでしょう。意図はともかく指導者の思いを率直に伝える手段と受け止められたはずです。

 しかし…、と歴史家の立場からケネディ氏は、冷たく言うのです。チャーチルは確かに膨大な仕事をしたが、歴史の潮流は変えられなかったではないか、と。戦争に勝ちはしたが、英国はインドなどの植民地を失い小島国として再出発しただけではないか、と。

 見いだされた首相吉田

 実際、戦争の勝敗にかかわらず帝国主義を終わらせたのは歴史の力強い流れでした。ここには、政治リーダーたちは精いっぱい努力しても、歴史の流れを変えるまでには至らないという、歴史学者ならではの抑制のきいた主張がうかがえます。もう少し踏み込むなら、歴史の流れを変えようというようなリーダーを待望するのはよしなさいというわけです。

 英国がチャーチルなら日本には吉田茂首相がいました。戦後、日米関係を基軸に据え、再軍備を拒み、天皇制を維持し自ら「臣茂」と称していました。それらは国民大方の支持するところでした。

 吉田といえば、あの独特のスタイルが思い出されます。国民がまだひもじい思いのころ、高価な葉巻をくわえ、折り目の立ったはかま、真っ白な足袋、それにステッキといういでたちです。その和洋折衷の不思議な姿は戦前の強くて富んだ日本を象徴していました。つまり連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーとの交渉を意識したものといわれます。

 吉田は、明治の元勲大久保利通の次男、牧野伸顕の女婿です。古き強き日本を内外に思い出させる必要があったのです。チャーチルの演説のごとく、日本国民を心強くさせたのではないでしょうか。外交官吉田は政界で煙たがられた分、国民との距離を熟知していました。寄席好きは有名ですが、犬を連れて散歩する写真を見た少女から「子犬を分けてください」という手紙を受け取って、それを実行したのは、チャーチルの英国風ユーモアを思わせます。

 歴史学の見地に立てば、吉田は日本敗戦という出来事に見いだされたと言ってもいいのではないでしょうか。彼の首相在任は合計二千六百十六日。憲政史上では桂太郎の二千八百八十六日、佐藤栄作の二千七百九十八日、伊藤博文の二千七百二十日に次ぐ四位。期間は歴史がそれぞれの使命に与えた時間でしょう。

 米国のオバマ大統領は、歴史が命じたかのように初の黒人大統領となり、次いで「核なき世界」を唱えました。歴史が彼を必要とし、民衆は彼の歴史認識を熱く支持したのです。

 日本は歴史的危機にあります。昨年の政権交代は歴史の必然であり、リーダーシップが発揮される好機だったのですが、そうはなりませんでした。政治は停滞し、少子高齢化は進み、指針なき経済は世界から取り残されそうです。

 共に歩むという意味

 その揚げ句の今度の民主党代表選には、国民と共に歩むという意味のリーダーシップはかけらも見えません。同様の先進国病に悩むドイツではメルケル首相が長期政権を率い、その口癖は「辛(つら)い仕事をしてゆくしかない」。ドイツ国民はその堅実と忍耐を理解しています。歴史を見るとは現実をよく見ること。夢想より足元を見るということです。それを政治家が国民に説き理解をえて共に歩む時、リーダーシップという言葉はやっと意味と力を帯びるのです。

 

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