政府の有識者懇談会が報告書で「平和創造国家」を提唱した。国際平和に積極的に貢献する姿勢は日本国憲法の趣旨にも合致し、異論はないが、自衛隊の海外派遣を伴う平和創造には節度も必要だ。
報告書は、安全保障政策の基本方針を示すもので、これをたたき台に「防衛計画の大綱(防衛大綱)」と「中期防衛力整備計画(中期防)」が年末に改定される。
特徴は、世界の平和と安全により積極的役割を果たす「平和創造国家」への転換を促したことだ。この概念は、民主党憲法調査会が以前、提言したものでもある。
日本が自国の平和のみならず、世界平和に積極的に貢献すべきであることは論をまたない。
冷戦終結後、自衛隊は国連平和維持活動(PKO)や災害救援、人道復興支援のために海外派遣され、実績を上げてきた。今後も活動が期待される場面も多かろう。
ただ、むやみやたらと派遣すればいいというものでもない。本当に自衛隊でないとできないのか、現地の人たちに歓迎されるのか、精査しなければならない。
報告書は、紛争当事者間の停戦合意や受け入れ同意、中立性維持、必要最小限の武器使用などのPKO参加五原則が、ソマリアなど破綻(はたん)国家の現出など時代の変化に適応していないとして、見直すよう提言している。
また、PKOに参加する他国要員の警護や他国部隊の後方支援もできるようにすべきだとして、これらを禁ずる憲法解釈を見直す必要性にも言及している。
平和創造国家として貢献する際の障害は極力排除すべきだが、最も大事なことは、交戦に巻き込まれてはならないということだ。
これは憲法の根幹であり、五原則や憲法解釈の見直しには慎重を期すべきである。積極的な貢献といっても、やはり節度は要る。
報告書はさらに、非核三原則の一部緩和や、集団的自衛権の行使を禁じる憲法解釈の変更、海外への武器輸出を禁じた武器輸出三原則の見直しなども求めている。これらはいずれも安全保障政策の抜本的転換を迫るものだ。
実際の政策にどこまで反映されるかは不透明だが、仮に、平和国家としての「国是」を次々と変えるなら、日本の戦後の歩みを評価する国際社会の失望を招く。
国際情勢に応じて安全保障政策を不断に見直すべきではあるが、それが地域の不安定要因になるようなら、本末転倒である。
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