HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17343 Content-Type: text/html ETag: "30086a-43bf-3f730480" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sun, 29 Aug 2010 00:21:42 GMT Date: Sun, 29 Aug 2010 00:21:37 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年8月29日(日)付

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 実際にそうなのだから仕方ないが、紙は軽くて薄いたとえによく用いられる。あまりいい使われ方はしない。「紙ぺらのような人物」とか「人情紙のごとし」などと言う▼結婚して1年の記念日は紙婚式と呼ぶ。2年たつと藁(わら)婚式だから、藁よりも重みがないことになろうか。おぼれる者は藁をもつかむと言うが、紙はつかんでももらえないようだ。四大発明とされ、長く人類に寄与してきた割には、比喩(ひゆ)は不遇をかこっている▼おとといの朝刊に「紙があって、よかった。」という広告が載っていた。日本新聞協会に加盟する全103紙が、紙の価値を再発見してもらおうと一斉掲載した。その軽さ薄さと裏腹に、紙にはどんな重い内容も盛ることができる。新聞に限らない。文芸も絵画も、楽譜も手紙も、人間の想像力や、伝えたい思いを紙は受け止めてきた▼広告の背景には電子時代への危機感がある。新しい端末が相次いで登場し、今後は電子の猛攻に紙がたじろぐせめぎ合いとなろう。わがことながら、紙媒体の先行きは安楽とはいえない▼これは和紙についてだが、書家の篠田桃紅さんが、「書かれたものが紙の上に立つように見えるのは、つまり紙の持ついのちなのであろう」と随筆に書いていた。同じことを、墨の芸術ならぬ活字にも思う。紙の字の方が電子画面より質量を伴って立ってくるのは、当方のひいき目だろうか▼「紙のいのち」に恥じぬコラムをと念じつつ、日々至らざるの思いは残る。新聞紙に薄っぺらを嘆かれぬよう、残暑の夏に鉢巻きを締め直す。

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