HTTP/1.0 200 OK Server: Apache/2 Content-Length: 17341 Content-Type: text/html ETag: "4972cd-43bd-1c3ed9c0" Cache-Control: max-age=5 Expires: Sat, 28 Aug 2010 00:21:37 GMT Date: Sat, 28 Aug 2010 00:21:32 GMT Connection: close asahi.com(朝日新聞社):天声人語
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天声人語

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2010年8月28日(土)付

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 ゲリラ豪雨なる言葉が流布する前、夕立は清涼感あふれる風物だった。突然かき曇り、雷鳴と大粒の雨が続く。天の打ち水が洗い流すのは、炎暑だけではない。ホコリ、昼間の憂さ、そして……▼〈入道雲にのって/夏休みはいってしまった/「サヨナラ」のかわりに/素晴らしい夕立をふりまいて〉。高田敏子さんの詩「忘れもの」の冒頭だ。幼いころ、8月下旬は宿題という年貢の納め時だった。毎日が飛ぶように流れ、あてにしていた「明日」はすぐ「昨日」になった▼激しい季節の終わりには、子どもならずとも一抹の寂しさを覚える。静かなる溶暗。すべてを白くした頭上の光が、ゆるゆるとフェードアウトしていく。〈身辺にものの影ある晩夏かな〉倉田紘文▼今年ばかりはその影が恋しい。熱中症は4万人超を病院に送り、お年寄りを中心に何百もの命を奪った。老人といえば、熱にあぶり出されるように、戸籍の中だけの長寿者が次々と見つかっている。長崎県には「200歳」がいた。行政の「忘れもの」だ▼強く狂おしい夏は、残していく気だるさも平年の比ではない。優しい秋を待ちながら、くたびれた心身をしばし横たえる頃合いだろう。そんな時、決まって耳の底に流れる旋律がある▼〈ゆく夏に/名残る暑さは夕焼けを/吸って燃え立つ葉鶏頭(はげいとう)……〉。和歌を思わせる語調と、鮮烈な情景で始まる松任谷由実さんの「晩夏」だ。その植物は、炎天の記憶を血痕のごとく葉に散らし、あかね空の下で黙している。安らぎの季節まで、もう少しの我慢である。

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