<お土砂を掛ける>という言葉がある。例えば、嫌な仕事を前に、「やっぱり、ここ一番は君が頼りだ」などとおだてられて、「そうかな」と思ったら、それが、お土砂を掛けられた状態だ▼加持祈祷(きとう)した土砂を遺体にかけると、硬直がなくなるという仏教のおまじないが由来とか。確かに、生身の人間にも、おべんちゃらを言われると、いい気になって、グニャグニャになってしまう傾きがある▼さて、急激な円高が止まらない。輸出依存の日本経済ゆえ、当然のように株安も招き、平均株価は、昨日も年初来安値を更新。このままだと景気が腰折れするとの懸念も強まっている▼円高は、ドルやユーロが売られ円が買われるから起こる。これまでは、米国景気の先行き不透明感や欧州の財政不安を背景に、比較的安全な円が買われる、という解説がなされてきたが、最近の動きはどうも違う感じがする▼市場が、日本には阻止の手だてなし、と見透かして円高を仕掛けている面があるようだ。実際、金融緩和の余地は少なく、台所事情から大胆な財政出動も難しい。米、欧も輸出を助けるドル安、ユーロ安はむしろ歓迎で、協調して為替介入してくれる空気もない…▼何か「円は安全」の言葉でちょっと<お土砂を掛けられた>ような気分だが、日本経済の先行きがかかる正念場である。政府、日銀の知恵に期待したい。