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天声人語

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2010年8月25日(水)付

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 恐怖症ではないけれど、高所より閉所が苦手だ。高所には少なくとも落ちる自由があるが、閉所は動きがとれない。怖さの正体は狭さの圧迫感ではなく、ずっとこのままだったらという「終わりなき時」の重圧だろう▼落盤が起きたチリの鉱山で、事故から17日後に作業員33人全員の生存が確認された。地下700メートルの避難所に逃れ、備蓄の食料や水で命をつないでいたという。捜索の掘削機に託した〈全員無事〉のメモが地表に届いた瞬間、無限の時の中にぼんやり「終」の字が見えたに違いない▼救出に4カ月はかかるという。昼夜のない地底では途方もない時間である。細い管で食料や薬を送りながら、脱出用の穴を掘る。連絡がつくのは心強いが、地震国だし病気も怖い。地の中も上も、これからが本当の闘いになる▼このニュースを聞いて、モスクワで進行中の「閉じこもり実験」を思い出した。志願の男性6人を520日間、550平方メートルの実験棟に密閉し、心身への影響を調べる。火星往復の旅を想定したもので、「帰還」は来年11月という▼チリの出来事がロシアの公開実験と決定的に違うのは、自分の意思で終われないことだろう。状況は潜水艦か宇宙ステーションの非常事態に近い。チリ政府は米航空宇宙局(NASA)に助言を求めるそうだ▼優先して差し入れるべきは何か、心身の健康をいかに保つか。未知の極限体験から学ぶべきことはいくつもある。33の命を賭けた、ぶっつけ本番の救出作戦である。一人も欠けずに、奇跡の主人公となる日を待ちたい。

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