「神様、どうか助けてください」「一生懸命に生きます」。米国で心臓移植手術を受けた青年は、補助人工心臓の耐用期限が過ぎたころ、激しい吐き気と下痢に襲われ、祈りの言葉が自然に出てきたという▼心臓移植以外、助かる道がない拡張型心筋症。当時、日本での移植例はわずか十例なのに、移植を待つ患者は全国で四十人以上いた。年間約二千例の心臓移植を実施していた米国での手術に希望をつないだ▼ドナーが現れたのは渡米三カ月目。「もう死ぬかもしれない」と絶望しかけた時、名も顔も知らない「二十一歳の男性」から命を授かった。「ドナーの分まで生きる」と青年は誓った▼先月十七日に施行された改正臓器移植法は、本人の意思が不明でも、家族の承諾による臓器提供を可能にした。一カ月余りで、家族の承諾で脳死移植に至るケースがすでに三件に上る▼東海地方の病院で脳血管障害の治療を受けていた五十代の女性患者の場合、父や兄姉らが「誰かの役に立てたい」と決断し、心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓(すいぞう)がそれぞれ移植された。家族の重い決断を尊重したい▼いずれ十五歳未満の子どもの親が、苦しみながら決断する日も来るだろう。後になって、判断が正しかったのか悩む親が出てくるかもしれない。精神的に支える体制づくりは欠かせない。情報の公開とともに、真っ先に進めてほしい。