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乗員5人が死亡した第6管区海上保安本部のヘリコプター墜落事故で、6管本部の組織ぐるみの情報隠蔽(いんぺい)が明らかになった。事故は司法修習生向けのデモンストレーション飛[記事全文]
被害者の失望はいかばかりだろう。国内最大の食品公害とされるカネミ油症事件をめぐる被害者救済法案づくりのことだ。中心になっていた民主党議員が参院選で落選し、与党の過半数割[記事全文]
乗員5人が死亡した第6管区海上保安本部のヘリコプター墜落事故で、6管本部の組織ぐるみの情報隠蔽(いんぺい)が明らかになった。
事故は司法修習生向けのデモンストレーション飛行の合間に起きたが、そのデモ飛行があったこと自体を隠していた。飛行目的は事故原因を解明するために必須の情報であり、証拠隠しともとられかねない行為である。
ヘリは香川県沖の瀬戸内海上空で、島と島の間に張られた送電線に触れて墜落した。記者会見では飛行目的を「パトロール」と説明し、報道機関からの指摘を受けてデモ飛行を認めたのは事故から丸一日以上たってからだ。
前原誠司国土交通相は「疑義をもたれることを隠していたことは問題だ。厳しく反省してもらわないといけない」と批判し、隠蔽の経緯を報告するよう海上保安庁長官に指示した。
このデモ飛行は、岡山地検で研修中の司法修習生のための体験航海にあわせて計画された。2回のデモ飛行とパトロールを実施する予定で、事故は2回目のデモ飛行に向かう途中だった。
デモ飛行そのものが問題なのではない。海保の仕事の内容を理解してもらうため、小学生を乗せた体験航海や海の日のイベントなどでもおこなわれていることだ。
それならばデモ飛行の事実をなぜ隠したのか。隠蔽は6管の幹部らが協議して決めていた。海保は海難事故などで検察庁に事件を送致する関係にある。岡山地検に迷惑をかけてしまうと気をつかったのなら、一般常識から離れた役所同士の身内の論理である。
あろうことか、記者会見した6管の林敏博本部長は「世間の常識と海上保安庁の常識とでは違うところがある」と述べた。本部長は自らの判断でデモ飛行を公表しなかったことは認めながら「組織的な隠蔽ではない」とするなど説明も一貫しない。事故後の対応がなんともお粗末だ。
現場付近は船の往来が多く、墜落の巻き添えで被害が出てもおかしくなかった。島々を結ぶ送電線は各地にある。長野県で2004年、信越放送の記者らが乗るヘリが送電線に触れて墜落した事故を受けて航空法が強化された。それでもまた起きたことを深刻にとらえ、事故原因を解明し、法令の見直しも再び検討しなければならない。
事故調査にあたる運輸安全委員会は、事故原因とともにデモ飛行を隠蔽した理由も明らかにすべきだ。
運輸安全委員会は海上保安庁と同じ国交省の外局だ。昨年、JR西日本の脱線事故で報告書漏洩(ろうえい)が問題になったばかりである。一方、刑事事件としての捜査は海保自身の管轄だ。身内意識で手を抜くようなことがあってはならない。場合によっては警察への協力要請も必要だろう。
被害者の失望はいかばかりだろう。
国内最大の食品公害とされるカネミ油症事件をめぐる被害者救済法案づくりのことだ。中心になっていた民主党議員が参院選で落選し、与党の過半数割れもあって法案提出の見通しが立たなくなっている。
民主党は野党と協議して法案の成立をめざすべきだ。被害者救済を掲げる超党派の国会議員連盟も、休止状態にある活動を再開してもらいたい。
カネミ油症事件が発生したのは1968年。北九州市のカネミ倉庫が製造した米ぬか油を食べた人々に深刻な健康被害をもたらした。製造過程でポリ塩化ビフェニール(PCB)が混入、加熱されて猛毒のダイオキシン類が発生したためだ。
約1万4千人が黒い吹き出物やがん、内臓疾患、死産や早産などに苦しんだ。被害は西日本一帯に広がったが、認定患者は2千人を下回る。認定されても、カネミから23万円の見舞金と医療費の一部補助があるだけだ。
効果的な治療法はいまだにない。症状ゆえの差別や偏見を恐れ、隠れるように生活している人は今も多い。
被害者らはカネミや国を訴えたが、87年に最高裁で和解が成立、国への訴えは取り下げられた。行政の責任を認める司法判断がない以上、賠償などの措置には応じられないというのが、今の国の立場だ。だが、このまま放置できる問題だろうか。
事件の数カ月前に、この毒油の搾りかすの飼料で大量のニワトリが死んだ「ダーク油事件」が発生していた。当時、農林省は食用油の安全性に疑念を抱かず、厚生省への通報を怠った。連携していれば被害は抑えられた。複数の下級審もそう判断していた。
また、裁判当時はPCBが原因と考えられていたが、その後、ダイオキシンを直接食べた被害事件だとわかった。人類が経験したことのなかった化学物質による大量中毒である。
カネミは、経営難で資力がないとして和解で確定した賠償金さえ支払いを怠り続けているのが現状だ。
こうした事情を考えれば、国も救済に乗り出すべきではないだろうか。水俣病などでは、国は被害者救済の観点からなにがしかの恒久的な対策を講じている。カネミの被害者には何の対策もないというのではおかしい。
これまでの経緯などにこだわって行政機関が対応できないなら、それを動かすのは政治の責任だろう。
市民団体「カネミ油症を告発する会」は北九州市小倉北区のカネミ倉庫の正門前で月1回、12時間の座り込みを続けている。今月28日で丸40年を迎える。「本質的に何も解決していない」。会員の牧師、犬養光博さん(71)はそう訴える。
政治は応えるべきではあるまいか。