近年の激しい豪雨などで、地層の深層崩壊による土砂災害が注目され、国土交通省は初めて全国の推定頻度マップを公表した。大災害となった過去の実例が多く、まず危険地域の確認を急ぎたい。
昨年の台風8号により台湾中南部で、最大三〇〇〇ミリ近い降雨があり、死者・行方不明者は六百九十九人に達し、高雄県小林村のみで約四百五十人の人命が失われた。その原因が深層崩壊だった。
わが国でも深層崩壊により、鹿児島県出水市針原地区で一九九七年七月、死者二十一人を出した土石流が起きた。六一年六月、長野県大鹿村の大崩落では四十人が犠牲になった。
さかのぼれば一八八九年八月、奈良県十津川村の複数個所の山崩れで約百六十人が死亡、集落の再建を断念した約二千六百人が北海道へ集団移住した例もある。
通常の土砂災害は、厚さ〇・五〜二メートルの表層土が崩れるが、より深い層の地盤が崩壊するのが深層崩壊である。十万立方メートル以上の大量の土塊が急速に崩壊し、土石流そのものの被害のほか、流出土砂が川をせき止めた天然ダムが決壊すれば下流域を洪水が襲う。
降雨、融雪、地震が直接の原因である。地質時代で第四紀地層の隆起量が多いところ、集水面積が大きかったり、水の流れが急な地形も影響する。総降雨量四〇〇ミリ以上で深層崩壊は起きやすいとの指摘もある。
日本の災害は台湾、フィリピンと並び、深層崩壊が特徴的だ。近年、局地集中豪雨が頻発、とくに警戒が大切である。
国交省は、国内の過去の事例百二十二の分析を中心に、都道府県別の深層崩壊推定頻度マップを公表した。長野、宮崎、奈良、次いで山梨、群馬各県の順で発生頻度の特に高いと推定される地域の比率が大きい。
マップは相対的な発生頻度の推定で、各地域の精密な危険度を示すものではない。具体的な深層崩壊の究明は始まったばかりで、たとえば地震との関連はまだ詳しくはわからない。
同省は、発生頻度がとくに高いとされた地域は、渓流ごとの小地域単位に危険度の評価を三年程度かけて行う。できるだけ作業を急ぐべきだ。一度災害が起これば、人命と資産に大きな被害をもたらすのは目にみえている。
危険と評価された地域に集落があれば、とりあえず災害が切迫した場合に住民に警告、避難に万全を期す態勢だけでも築くべきだ。
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