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8月21日付 編集手帳

 吉野弘さんに『創世紀』と題する詩がある。〈あれは、たのもしい命綱で/多分/母親の気持を伝える電話のコードだったろう/母親の期待や心配はすべて/このコードの中を走り/お前の眠りに届いていたにちがいない〉(思潮社刊『続・吉野弘詩集』より)◆「電話のコード」とは臍帯(さいたい)、へその緒のことである。誕生後にコードは切れても、受話器は互いのからだに残る。コードレスの携帯電話にも(たと)えられよう◆心の通話ができる携帯電話に、故障がつづく。母の側の受話器が破損した例が「虐待」や「育児放棄」ならば、子の側の受話器が破損した例は「消えた高齢者」だろう◆東京・羽田のアパートで、住民登録上は「104歳」になる母親がリュックから白骨遺体で見つかった。息子(64)は、「9年前に病死し、ミイラ化したので砕いた」と話している。年金を不正に受給した疑いもあるという◆リュックの中の母は、子のおなかにある、かつてコードで結ばれていた受話器に何を語っただろう。自分の変わり果てた姿のことは忘れて、息子を(あわ)れむ言葉を告げたかも知れない。母親とはそういうものだから。

2010年8月21日01時33分  読売新聞)
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