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ともに貿易立国で発展してきた日本と韓国。お互いに貿易を自由化しようという交渉が暗礁に乗り上げてから、もう6年近くになる。それを打開するため両国の政府が来月、交渉再開に向[記事全文]
年をとったり障害があったりで十分な判断力を持たない人を、詐欺などの被害からいかに守り、支えていくか。この課題に取り組むために成年後見制度がスタートして10年が過ぎた。本[記事全文]
ともに貿易立国で発展してきた日本と韓国。お互いに貿易を自由化しようという交渉が暗礁に乗り上げてから、もう6年近くになる。
それを打開するため両国の政府が来月、交渉再開に向けて初の局長級協議を開くことになった。これを機に、ぜひ交渉を前進させてほしい。
2004年の交渉中断は、日本の農水産品市場の開放をめぐる対立が原因だったが、いま韓国側を消極的にさせているのは産業界の意向だ。世界市場で成功した現代自動車やサムスンも、日本の消費者になじみは薄い。協定を結んでも韓国側の利益は小さいと考えられているようだ。
一方、日本から韓国へは付加価値の高い部品や機械の輸出が多く、韓国の対日貿易は構造的に赤字だ。このため、韓国は米国や欧州連合との間で自由貿易協定(FTA)を大胆にまとめてきたが、対日交渉については「貿易赤字がさらに拡大しかねない」と二の足を踏んできた。
日本側はこうした事情に気を配り、知恵をしぼる必要がある。たとえば韓国産業界が協定に魅力を感じられるようにする。非関税障壁をなくし、政府調達のあり方を変え、日韓協力事業を広げることが求められる。
政府はこんなときのために、関税引き下げだけのFTAではなく、サービスや投資などの制度やルール改善も含めた経済連携協定(EPA)を交渉の軸にすえてきたはずだ。
日韓自由貿易の意義は、両国経済を活性化することだけではない。もっと大きな成果として期待できるのは、その先にある東アジア自由貿易圏への扉を開くことである。
隣接する巨大市場である中国の成長力をいかに取り込むかは、日韓共通の課題だ。市場ルールや法制度が整っていない中国との間で、どのような協定を結んでいくか。まずそれを検討しようと今年5月、日中韓の産官学によるFTA共同研究が始まった。
この共同研究を足場に、日中韓FTA・EPA交渉へと歩みを進めることになるだろう。そこで中国側に基準認証や投資ルールなどの改善を求め、公正な貿易条件を整えるよう説くには、日韓の一致協力が不可欠だ。
中国が6月末、台湾との間で事実上のFTAである経済協力枠組み協定を結んだことで、台湾メーカーと競合する韓国企業への影響が心配されている。日本が何としても韓国との協定を早期にまとめ、そろって対中交渉へ向かう強い意欲を見せなければ、韓国は日本との自由貿易を後回しにしてしまう恐れがある。
東アジア自由貿易圏という大目標のほんの入り口にすぎないEPA交渉を前に、日韓が今のように冷めた状態であってはいけない。
年をとったり障害があったりで十分な判断力を持たない人を、詐欺などの被害からいかに守り、支えていくか。この課題に取り組むために成年後見制度がスタートして10年が過ぎた。
本人に代わり、財産管理や福祉サービスの選択、施設への入所契約といった法律行為を担うのが後見人だ。裁判所への選任申し立てはほぼ右肩上がりで増え、昨年は2万7千件を超えた。後見人に親族が就くのは6割ほどで、弁護士、司法書士、社会福祉士ら専門職が選ばれる傾向が強まっている。
家計や資産の線引きがあいまいになりがちな親族よりも、第三者のプロを起用することでトラブルを防ぎ、本人の権利を守る。不満を漏らす親族もいるようだが、制度の趣旨と現実を踏まえた理のある運用といえるだろう。
頭が痛いのは、財産は一定程度あるが専門職に月数万円の報酬を払って管理を頼むほどではなく、頼るべき身寄りもないような場合だ。放っておくと制度の網からこぼれ落ちてしまう。そこで注目されるのが、本人と同じ地域に住み、地域のネットワークを生かしながら無償で世話をする「市民後見人」だ。東京都世田谷区や品川区、大阪市などで取り組みが進む。
世田谷区の市民後見人とその候補者はこの秋で62人になる。50時間の研修を経て後見人に選任されると、本人宅の訪問、健康状態の点検、生活費の管理、契約の代行締結などを行う。悩みを抱え込んだり問題を起こしたりしないよう、弁護士や医師、税理士らが支援し、社会福祉協議会が活動全般を監督する仕組みも整っている。
だがこういう先進地を別とすれば、多くの市区町村は及び腰だ。財政が厳しく新規事業に取り組む余裕がない、そこまでの需要はない、素人よりも専門家の活用こそ考えるべきだ――。そんな声が多く聞かれるという。
もちろん地元の事情に応じた対応があっていい。ただ、この先も後見の申し立てが増加するのは間違いない。いったん後見決定が出れば、ほとんどの場合、本人が亡くなるまでその状態が続く。数は雪だるま式に増え、実際、全国でこの制度に基づく支援を受けている人は既に13万人になる。それを理解し、将来にわたって機能する体制を各地で築かねばならない。
保有する資産が多い、親族間の対立が厳しい、といった難しい案件は専門職が、そうでないものは市民が、それぞれ世話をする。本人を取り巻く事情が変われば、後見人も交代する。そんなふうにマンパワーを有効に使うことも大切だろう。
地域の連帯の喪失を感じることの多い現代。であればこそ、社会全体が意識して新しい関係を結び直していく必要がある。市民後見人も可能性を秘めた試みのひとつである。