米国防総省が中国の軍事動向に関する年次報告で、中国軍の海洋進出に強い警戒感を示した。東シナ海で中国と海洋権益をめぐる紛争を抱える日本も、米中の海洋をめぐる攻防に対応を迫られる。
十六日に発表された報告は中国軍が東シナ海や南シナ海にとどまらずインド洋、西太平洋にまで作戦を展開する能力を高めていると指摘。初の空母建造も今年中に始まる可能性があると明記した。
米国防総省は、二月に発表した「四年ごとの国防戦略見直し(QDR)」では中国の海洋進出について立ち入った記述を避けた。
周辺地域に「外国が戦力を展開することを拒否する」能力を高めている国の存在を指摘し、間接的に懸念を表明するにとどめた。
今回の報告で強い警戒心をあらわにしたのはQDRで示した懸念が現実化してきたためだ。南シナ海では昨年三月、米海軍調査船が中国艦艇に航行を妨害された。
現場を「公海」と主張する米国に対し南シナ海の島々の領有権を主張する中国は自国の排他的経済水域(EEZ)だと反論した。
今年三月には、中国は米国に対し南シナ海の海洋権益は主権と領土にかかわる「核心的利益」で、台湾やチベット問題などと同じく妥協の余地はないと宣言した。
危機感を強めた米国は、先月、ハノイの東南アジア諸国連合地域フォーラム(ARF)でクリントン国務長官が南シナ海の「航行の自由」を守り威嚇を排除する立場を表明、中国は激しく反発した。
韓国哨戒艦の沈没事件では北朝鮮による攻撃と断定した米国と韓国は現場の黄海で合同演習を計画した。これに対し中国軍は「中国に近すぎ強く反対する」(馬暁天副総参謀長)と表明した。
米韓は先月は日本海で演習をして中国に配慮したが、今月は米空母ジョージ・ワシントンを黄海に派遣し演習する構えで中国との緊張が高まっている。対立は海軍力強化で海洋権益確保を目指す中国と、太平洋で圧倒的海軍力を誇る米国の海洋覇権をめぐる争いの様相さえ呈してきた。
日中は東シナ海のガス田共同開発で合意しているが海洋権益をめぐる対立は今後も両国の火種になりうる。十一月のオバマ大統領来日に向け検討が進んでいる「日米共同宣言」では中国の台頭にどう向き合うかも焦点になろう。
日本は経済で依存する中国と協力を深めながら、強硬姿勢をけん制する複眼的外交が問われる。
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