敗戦から十八年を経た一九六三年六月、『文芸春秋』の編集部員だった作家の半藤一利さんは、終戦時に政府や軍の中枢にいた人物や前線にいた将兵ら二十八人を集め座談会を開いた▼内閣書記官長(現・官房長官)の迫水久常氏をはじめ、首相秘書官、外務次官、駐ソ大使、侍従、陸海軍の作戦・軍政の責任者らが顔をそろえた▼捕虜になった作家の大岡昇平氏、獄中にいた共産党の志賀義雄氏の姿もある。それぞれの視点で、戦争を振り返る言葉は、いま再読しても圧倒的な迫力がある▼迫水氏は、ポツダム宣言の受諾を事前に報じられたら、陸軍のクーデターで鈴木貫太郎総理は殺害されていたと回想。NHKの館野守男アナウンサーは、「玉音放送」を収録した録音盤を奪おうとした陸軍将校から、ピストルを突きつけられた体験を生々しく語った▼『日本のいちばん長い夏』のタイトルで再録され、今夏、映画にもなった座談会は、「回天」特攻隊員だった哲学者の上山春平さんが最後を締めた。「最大の愚行から最大の教訓を学びとること、これが生き残った特攻の世代に背負わされた課題なのかも知れません」▼座談会の出席者で健在なのは上山さん、俳優の池部良さんら数人しかいない。戦争から教訓を学ぶ責任は若い世代に引き継がれた。六十五回目となる終戦記念日は、それを自覚する日にしたいと願う。