HTTP/1.1 200 OK Date: Sat, 14 Aug 2010 20:13:46 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:被爆援護 遠くまで降った黒い雨:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

被爆援護 遠くまで降った黒い雨

2010年8月14日

 原爆が降らせた「黒い雨」。不明な点がまだ多く、潜在する被害者が、必要な援護を受けられないでいる。唯一の被爆国が対策をなおざりにしていては、核廃絶を唱える声にも力がこもらない。

 「私は何度も泉水のほとりに行って洗ったが黒い雨のしみは消えなかった」。反戦文学の代表作ともいわれる井伏鱒二の小説「黒い雨」の一節だ。被爆者の日記を基に書かれている。

 黒い雨は、原爆のきのこ雲が降らせた激しい雨だ。原爆のすさまじい爆風が巻き上げた大量のすすやほこりを含み、重油のように粘り気のある雨だった。その雨に打たれたりした被爆者が、急性白血病などの放射線障害に見舞われた。残留放射能の影響を後から受けた被害者も少なくない。被爆者同様、がん発症などの恐怖と闘いながら不安な日々を送っている。

 国は被爆直後の気象調査を基に一九七六年、爆心地から南北に約十九キロ、東西約十一キロを「大雨地域」とし、無料の健康診断などが受けられる援護対象地域に指定した。一本の川の両側で分かれるような“線引き”だった。

 ところが、最近の広島大などの研究や広島市の大規模な調査の結果、黒い雨が運んだと思われる放射性物質が指定地域外の土壌から検出されたり、きのこ雲の高さが、通説の約二倍に上る可能性が判明し、黒い雨の被害範囲が実際より狭く見積もられていたことが分かってきた。広島市は援護の対象区域を今の五倍に広げるよう、国に求めている。

 政府は今月六日、原爆症認定基準の緩和を検討し、黒い雨の降雨地域を検証し直す意向を見せた。机上の再検証にとどまらず、調査に基づく科学的究明にも取り組みながら、一人でも多くの被害者を速やかに救済してもらいたい。

 長崎では八年前、援護地域が拡大された。しかし、新たな援護対象者は被爆者ではなく「被爆体験者」と位置付け、放射線障害は認めずに、心的傷害に対して医療費を支給する。このような“政治解決”でいいのだろうか。

 黒い雨とその被害の真実を明らかにすることは、核兵器の真の怖さを世界に示すことにもなる。被爆国日本が果たさねばならぬ責務だ。平均年齢が七十六歳を超えた被爆者の多くが、心身の障害と闘っている。爆風や熱や放射線に傷つけられた体は元には戻らない。黒い雨の実態があいまいなままでは、心の痛みも癒やされない。

 

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