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国民年金の保険料の納付率が、昨年度は過去最低の60%だったことがわかった。不況で生活が苦しい人が増えたのに加え、保険料を払えない人への免除手続きや滞納者への督促などが不十分なためとみられる。[記事全文]
茨城県で活動する保護司の自宅が先月、放火で全焼した。火をつけたのは14歳の少年。2年前に別の放火容疑で補導され、この保護司が立ち直りの手助けをしているところだった。何と[記事全文]
国民年金の保険料の納付率が、昨年度は過去最低の60%だったことがわかった。不況で生活が苦しい人が増えたのに加え、保険料を払えない人への免除手続きや滞納者への督促などが不十分なためとみられる。
不祥事続きだった社会保険庁は解体され、今年から日本年金機構になったが、保険料の徴収や年金の支給といった本来の仕事がおろそかになっているのではないか。原点に立ち返った立て直しが急務だ。
厚生労働省によると、滞納者と直接会って保険料を納めてもらう戸別訪問は昨年度419万件で、前年度の半分以下だ。社保庁改革のなかで組織のスリム化や業務の効率化が強調され、手間のかかる戸別訪問よりも電話による督促が増えたからだ。
度重なる督促にも応じない滞納者に対する財産の差し押さえなど強制徴収も大きく減った。職員が年金記録問題への対応に追われ、十分な人手がさけないためとみられる。
しかし、ことは保険料をきちんと納めている人との公平性にかかわる。
滞納者にとっても、病気や事故で障害が発生した時に障害基礎年金が受けられなくなったり、将来、十分な年金が受け取れない低年金や無年金に陥ったりする心配もある。
効率化は必要だが、公的年金の役割を守るために手間をかけてでもやらなければいけない仕事はある。督促を民間業者に委託するにしても戸別訪問を条件にするとか、職員の配置見直しや国税庁との連携で強制徴収部門の人手を確保するとか、工夫の余地はある。
一方で、滞納者を生む背景、構造的な問題にも目配りが必要だ。
かつて自営業者が中心だった国民年金は、今や加入者の約4割がパートなど非正社員の人たちだ。納付率が低いのもこの層だ。滞納者全体の平均年収は113万円。これで毎月約1.5万円の保険料を払うのは大きな負担だ。
こうした人たちの中には、保険料の免除を受けることが出来る人も少なくないはずだ。保険料を免除されている間は、年金の受給資格に必要な加入期間として認められるうえ、2分の1の公費負担分が将来の給付にも反映される仕組みになっている。
保険料を払うことが困難なのか、支払い能力があるのに納めないのかをきちんと見極め、それに応じたきめ細かい対応を徹底したい。
制度そのものの見直しも必要だ。非正社員の人たちも、厚生年金に入ることができれば、国民年金のような定額の保険料ではなく、所得に応じた保険料になり、無理なく払うことができるようになる。
厚生年金の適用拡大については、与野党で方向は一致している。法律の改正へ早急に踏み出すときだ。
茨城県で活動する保護司の自宅が先月、放火で全焼した。火をつけたのは14歳の少年。2年前に別の放火容疑で補導され、この保護司が立ち直りの手助けをしているところだった。
何とも痛ましい事件だ。少年は保護司を支えとして頼りにする一方で、社会や学校になじめず「少年院に戻りたい」と漏らしていたという。
放火癖など特別な事情がある者の処遇はどうあるべきか。更生、教育、福祉そして医療、お互いの連携は十分だったか。くむべき教訓は少なくないように思う。あわせて、事件を機に保護司の仕事に恐怖感をもったり、就任をためらったりする空気が広がることがないようにしなければならない。
保護司は全国に約4万8千人いる。法務省の職員である保護観察官と連絡を取りながら、刑務所を出た人や非行をした少年の更生を支えるため、定期的に面談し、生活上の助言をしたり就職先の確保に汗をかいたりする。
担当している相手から、時に暴言を浴びせられるなど嫌な思いをすることもある。しかし今回のような深刻な被害に至る例はほとんどないという。出所者らにとって保護司は命綱で、「保護司さんを裏切ってはいけない」というのが大方の声だと聞く。こうした認識を社会全体でも共有したい。
驚くのは、家を失った保護司に対し国による被害回復策がないことだ。労災制度はあっても、財産被害には適用されないという。たしかに法律の定めを超えて税金を使うわけにはいかないし、一般の公務員や犯罪被害者への支援策との均衡も考えなければならないといった事情は分かる。だが、できない理屈をただ並べてみても、多くの人は得心しないだろう。
保護司は無給のボランティアで、国からは実費相当のお金が支払われるだけだ。それでも保護観察の対象者を家に出入りさせ、食卓を一緒に囲む人も少なくない。公のために働き、自宅まで開放するのに、補償はない――。これでは不安と不信を招き、制度の存立を揺るがす事態にもなりかねない。損害保険の導入など、万一に備えた対策をとるのは政府の責務ではないか。
行政は保護司の善意に頼り過ぎていると言われて久しい。近年、観察官が増員されたり、保護司同士が悩みなどを持ち寄り協議するための会議費が予算計上されたりしたが、十分とは言い難い。面談室を備えた更生保護の拠点を公共施設内に配置する構想があるが、実現したのは全国に883ある保護司会のうち21にとどまる。
民と官が協働して再犯防止に取り組み、暮らしやすい社会をつくる。地味で、大向こう受けしない政策かもしれない。だが、現政権が「新しい公共」の確立を唱え実践するというのなら、きちんと向き合うべき課題のはずだ。