人事院は国家公務員の給与とボーナスを二年連続で引き下げる勧告を行うと同時に、公務員制度改革の問題点もまとめた。深刻な財政危機を反映できない現行方式は限界だ。政治主導で改革を急げ。
一九四八年に始まった人事院勧告制度は争議(スト)権など労働基本権が制約されている国家公務員への代償措置だ。直接の対象は一般行政職員など約二十七万四千人だが、最終的には地方公務員約二百八十六万人の給与を改定する指針となる。
今年の勧告は(1)民間よりも高い四十代以上の月給を0・1%減額し、本年度中に五十六歳以上になる職員は一部を除きさらに1・5%引き下げる(2)ボーナスの年間支給月数を〇・二カ月下げて三・九五カ月分とする(3)二〇一三年度から定年を段階的に六十五歳まで延長する−などとなっている。
給与勧告を受け取った歴代内閣はほぼ例年、完全実施してきた。今回も認められれば一般行政職の年間給与はモデルで九万四千円減の六百三十三万九千円となる。
この給与水準は高くないとの声もあるが、中小零細を含めた国税庁の民間給与の実態調査では〇八年の給与所得者の平均年収は四百三十万円である。また年収三百万円以下が一千八百万人と、全体の四割近くを占める。国民の多くは官民格差は広がっている、と感じるのではないか。
今回の引き下げで財政負担は約七百九十億円減少するという。民主党が掲げた国家公務員の削減や出先機関の統廃合による総額人件費約二割、一兆円以上削減するとの公約に比べ小さな額だ。
民間準拠の現行方式では財政危機が十分に反映されない。一九八二年、財政非常事態宣言を表明した鈴木善幸内閣は給与引き上げ勧告を凍結したことがある。今回は引き下げ勧告だから凍結では意味がない。この際、勧告を修正して下げ幅拡大を検討すべきだ。
人事院は勧告とともに、労働基本権問題で論点をまとめた。
公務員に協約締結権と争議権を付与した場合、民間と同じ労使関係が成立し交渉で給与などを決めることになる。また締結権は認めるが争議権は認めない場合は代償措置(仲裁制度)が必要、など四つのパターンを示した。
政府・与党の改革論議に対するけん制球といえる。官は公務員制度改革の本気度を試している。菅直人首相はひるむことなく給与勧告に修正を加え、改革の工程表を早急に策定すべきである。
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