書面による生前の意思表示なしで臓器提供を前提にした脳死判定が行われた。改正臓器移植法の施行で可能になったが、脳死判定に至る過程がまだはっきりしない。十分な検証が必要である。
日本臓器移植ネットワークによれば、臓器提供者(ドナー)は二十代男性で、交通事故による外傷で脳死に陥り、家族が臓器提供を承諾したという。
旧臓器移植法などでは、ドナーは十五歳以上で、生前にドナーカードなど書面で提供の意思表示をしたうえ、家族が承諾した場合に脳死判定・臓器提供が可能になるなど提供要件が厳格に定められていた。
先月十七日から全面施行された改正法では、提供要件が大幅に緩和された。提供の年齢制限が撤廃され、本人の生前の意思表示がある場合のほか、意思不明の場合でも家族の承諾があれば提供できる。意思表示も書面の必要はなくなった。今回の場合、本人意思は書面ではなく、家族に生前口頭で伝えていて、それを家族が「総意」で「尊重」して決めたという。
改正法で意思表示を書面でなくてもいいとしたことで、ドナーの増加が期待される半面、不透明さの増大も危惧(きぐ)されていた。
九日夕から厚生労働省で行われた同ネットの記者会見では「ドナーが提供の意思を口頭で伝えたのはいつごろのことか」「心臓死ではなく脳死下での臓器提供にも本人が同意していたのか」など、改正法の根幹ともいうべき点をただす質問に対し、同ネット側は「把握していない」を連発するだけで返答に窮する場面が目立った。
家族と臓器提供の仲立ちをする移植コーディネーターが家族から詳細に聞き取っていないか、聞き取っても会見の場に十分に伝えられなかったのかは不明だが、いずれにしても、このような質問が出ること自体、旧法下では考えられないことだ。こうした曖昧(あいまい)さが続けば、移植医療への不信感につながる。厚労省には事後の検証をしっかりと行ってもらいたい。
改正法で書面の意思表示が求められていなくても、日ごろから家族の間で脳死になったときのことを十分に話し合い、提供の意思があれば意思表示カードや、順次始まる運転免許証、健康保険証の意思表示欄に明示しておくことが望ましい。その方が家族への心理的負担が軽減される。
第三者の死を前提にして初めて成り立つ臓器移植で最も求められるのは、透明性の確保である。
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