HTTP/1.1 200 OK Date: Mon, 09 Aug 2010 22:12:36 GMT Server: Apache/2 Accept-Ranges: bytes Content-Type: text/html Connection: close Age: 0 東京新聞:週のはじめに考える 小夜啼鳥のメッセージ:社説・コラム(TOKYO Web)
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【社説】

週のはじめに考える 小夜啼鳥のメッセージ

2010年8月8日

 スウェーデンをはじめ、福祉国家を理念に掲げる北欧国家像が論じられています。北欧に倣うには、忘れてはならないことが幾つかありそうです。

 対岸にデンマークを望むスウェーデン西部の地マルメを訪れたとき、夜空に響き渡る珍しい鳥の鳴き声に驚いたことがあります。大地を叩(たた)くような、硬い連続音でした。地元の人が教えてくれました。「ナイチンゲールですよ」

 大恐慌下で掲げた理念

 夜にも鳴くという小夜啼鳥(さよなきどり)。その雅(みやび)な和名とは相いれないきつい音色に驚いたものでした。名は体を表すとは言いますが、名が醸し出すイメージと実像が食い違うことも往々にしてあります。いま頻繁に聞かれる「北欧モデル」はどうでしょう。

 「北欧モデルは戦後、福祉国家や平和国家の象徴としてもてはやされながら、一九七〇年代には肥大した官僚組織や経済的非効率の典型として批判されました。今また評価の対象となっていますが、日本での議論は必ずしも実態を踏まえた議論とは言えません」。北欧史研究の専門家、吉武信彦高崎経済大教授は指摘します。

 北欧モデルの中でも理想的な例として取り上げられるスウェーデンが福祉国家建設を掲げたのは三〇年代のことです。未曾有の大恐慌の時代。東にソ連の共産体制、西にナチスの全体主義。二つの脅威に挟まれ、中立を是とするスウェーデンが社会民主労働党政権のもと打ち出した国家理念でした。当時、すでに資本主義でも社会主義でもない「第三の道」と評した専門家もいました。

 戦時中、スウェーデンは紆余(うよ)曲折を経ながらも中立外交を貫き、国土の荒廃を免れます。周辺諸国が復興に追われる中、四十年以上続く社民党政権下で順調な経済成長を遂げます。

 定義のない混合モデル

 目的を失った若い層の高いアルコール依存や自殺率問題など、高福祉社会に伴う負の面を抱えながらも雇用、医療、年金、教育、男女機会均等など、「子宮から墓場まで」を保障する安心社会の考え方は国民の高い支持を得ました。

 七〇年代の石油ショック、九〇年代初頭のバブル崩壊などによってこのモデルは修正を迫られます。その度に制度のスリム化、市場原理導入が図られました。政権交代も幾度もありましたが、福祉国家維持に関しては与野党間にコンセンサスが形成されています。

 「スウェーデンモデルに定義はありません。強いて言えば、大きな政府を基盤にしつつ、臨機に効率的な民営化を採り入れるコンビネーションでしょうか」。こう述べるノレーン駐日スウェーデン大使は「ただし、段階的に、コンセンサスを経ながらの実施が前提です」と力を込めます。

 好例が年金制度です。税金を主な財源として設計されていた給付型年金制度は、少子高齢化、低成長時代の到来で持続不可能になりました。九〇年から十年をかけて国民的論議が展開され、高齢者から現役世代に重点を移すことで合意し、保険料を中心とした拠出型へと政策転換しました。自己責任に基づく一部積み立て方式をも含んでいます。新制度は二〇〇〇年にスタートし、二十年かけて段階的に移行中です。

 九百万人という人口規模。ルター派教会の影響を受けた国民の勤勉さ。農業国家だった連帯感。さらには、生涯学習を織り込んだ高い教育水準などがコンセンサス社会の背景にあるとされます。

 北欧モデルは今も評価ばかりではありません。金融危機への巨額の公的支援や国民皆保険制度につながる医療改革という実績を重ねているオバマ米政権に対しては、保守陣営から「米国の欧州化」を懸念する強い批判が巻き起こっています。近づく中間選挙での争点となるでしょう。

 北欧諸国は国家の理念を明示し、国民を粘り強く説得し、国際社会で独自の外交を掲げる気概で福祉国家への道を歩んできました。米国には米国が追い求める「国の形」があります。日本はどうでしょう。

 「作り物」では続かない

 アンデルセンの童話に「ナイチンゲール」があります。中国の皇帝が、森にすむ小夜啼鳥の噂(うわさ)を聞き連れて来させます。鳥籠(かご)に入れられた小夜啼鳥は宮中生活に戸惑い姿を消します。皇帝の心は日本から寄贈された機械仕掛けの小夜啼鳥に移るのですが、そこは作り物、ほどなく壊れてしまいます。

 悲しみで病に伏した皇帝を立ち直らせたのは、森で生活することを条件に舞い戻った小夜啼鳥が奏でる本来の美しい鳴き声だったというのです。

 北欧の福祉国家像は、その独自の歴史に根差すものであることを忘れては、北欧モデル論もないものねだりに終わりかねません。

 

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