世界最大の核兵器保有国の大統領が「核なき世界」の実現を訴える。だが、世界で唯一の原爆使用国としての責任までは口にしても、使用自体が間違いだったとは認めない▼一方、世界で唯一の原爆被害国は当然、ずっと前から「核なき世界」の実現を訴えている。だが、同時に、世界で唯一の原爆使用国を同盟国と頼んでおり、その核兵器の傘の下にいる▼世界で唯一の原爆使用国の大統領が「核なき世界」を言えば、世界で唯一の原爆被害国は歓迎する。だが、世界で唯一の原爆使用国に対し、使用自体が間違いだったと認めるようには求めない…▼昨日の広島平和記念式典。初の米国大使出席に関し「前進だ」という評価も、「なぜ謝らぬ」という不満もあっただろう。だが、その両方が同時に存在する、いわば、矛盾した感懐を抱いた人も多かったのではないか▼だとしても不思議はない。そもそも核兵器をめぐり「唯一の原爆被害国」日本も、「唯一の原爆使用国」米国も、そして両国の関係自体も、多くのやっかいな矛盾に支配されているのだから▼昨日、広島市長は「核の傘」離脱を求め、首相は即座にそれを拒否した。確かに、どの矛盾であれ解消は容易ではない。だが、それを言い訳に無力感に陥っては「核なき世界」は遠のく。小さくても歩みを進めるほかない。たとえ、当面は矛盾と道連れだとしても。