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8月6日付 編集手帳

 早坂暁さんの『夢千代日記』は、母親の胎内で被爆した女性が主人公である。吉永小百合さん主演のドラマをご記憶の方もあろう◆被爆者の認定を受けるには、母親が被爆した事実を裏付ける証人を探さねばならない。夢千代に、ある因縁からヤクザの男が力を貸す。男と子分の会話より。「どや、見つかったか」「へえ、○○組にも頼んで…」「なに、○○組にも頼んだのか!」「これは原爆のことやから、敵も味方もない思いまして…」◆原爆のことには敵も味方もない。思惑も駆け引きもない。核軍縮や核不拡散に合言葉があるとすれば、子分のセリフに尽きるだろう◆中国がわが身の利害や思惑を優先して北朝鮮をかばい、それが結果として北朝鮮の核開発を後押ししてきた経緯を顧みるとき、合言葉の不在がもどかしい◆広島が被爆した直後、15歳の早坂さんは海軍兵学校から故郷に帰る途中、貨物列車から廃虚の市街を見た。夜の雨に()れ、無数の遺体から流れ出た(りん)が青白く燃える闇のなかに、赤ん坊の泣き声が聞こえたという。夢千代の面影に重なるその赤ちゃんも、無事であれば65歳をすぎている。

2010年8月6日01時18分  読売新聞)
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