排ガスの直撃にも耐えられる街路樹として植えられた夾竹桃(きょうちくとう)がいま、鮮やかな赤い花を咲かせている。インドが原産で、江戸末期に渡来した低木の常緑樹。花がモモに、葉がタケに似ていることからその名が付けられた▼<夾竹桃ピカドンの日をさりげなく>(平畑静塔)。原爆が投下され、放射能で汚染された広島には「七十五年間、草も木も生えない」といわれた。焦土にいち早く、赤や白の花を咲かせたのが夾竹桃だった▼葉や枝を切ると白い液が出る。強い毒を持ち、「縁起が悪い」とかつては嫌われていたその花が、復興しゆく被爆地のシンボルになったのだ。一九七三年には広島市の「市花」に定められた▼被爆から六年後、原爆を体験した少年少女の手記をまとめた『原爆の子』が出版され、執筆者がその約二十年後に親睦(しんぼく)団体をつくった時に、命名されたのは「きょう竹会」。大気汚染や乾燥に耐え抜く生命力の強さは、再生のイメージと重なり合う▼あす六日は広島の原爆忌。人類で初めて原子爆弾が投下されてから六十五年になる。今年は潘基文(バンキムン)国連事務総長とともに、式典出席を避けてきた米、英、仏の代表が初めて平和記念式典に参列する▼人類の課題である核廃絶に、一筋の光明が差し込んできた。平和公園や原爆ドームの周辺で咲き誇っている夾竹桃が、各国の代表を温かく迎えてくれるだろう。