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8月4日付 編集手帳

 ビルの屋上から投身自殺した女性の遺体が、数か月後に植え込みから見つかる…。以前、東京で実際にあった出来事を、評論家の松山巖さんが『手の孤独、手の力』(中央公論新社)に書き留めている◆つづきがある。飛び降りたことを知る者はいなかったが、あとで調べてみると、ビルの管理用コンピューターは女性が自殺したであろう日、屋上に出て戻らなかった人間がいたことを記録していた。その数、「1」と◆松山さんはコンピューターの画面に現れた「1」を〈現代の幽霊〉と呼ぶ。たしかに、命のはかない“影”である◆111歳で健在のはずの男性がじつは30年前に死亡していたことが判明したのにつづき、同じ東京都内で今度は113歳の女性の所在が分からないという。「111」「113」という数字の“影”だけがあり、“形”は誰も知らない。これも〈現代の幽霊〉だろう◆どちらの高齢者にも肉親がいた。―いかにいます父母…と唱歌『故郷(ふるさと)』を歌い継ぎ、常に肉親の身を気遣ってきた日本人の暮らしと、「所在不明」の荒涼たる4文字とが、頭のなかでうまくつながってくれない。人の砂漠に心が渇く。

2010年8月4日01時59分  読売新聞)
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