今年の労働経済白書は非正規雇用労働者の増加による勤労者間の所得格差の拡大を取り上げた。問題意識は評価できるが、格差是正のための具体策と今後の労働・雇用政策の展望が不足している。
政権交代は政府の白書にも如実に表れる。例年、労働経済白書は労働側に近い視点で書かれることが多いが、今年は非正規雇用が抱える低賃金・不安定雇用の窮状を正面から取り上げたことが特徴である。
白書によると、雇用者に占める非正規雇用の比率は一九九七年の23・2%から二〇〇七年には33・7%へと10ポイント以上も高まった。
非正規雇用はパート・アルバイト、派遣・請負・契約社員などで構成される。このうち派遣は一九九九年の改正で対象業務が原則自由化され、二〇〇四年の改正では製造業派遣も解禁された。
この間の雇用者全体の年間収入の変化をみると、十年間で百万〜二百万円台半ばの低所得層の割合が高まった。とくに非正規では低所得層の増加が目立ち、中間層の減少を通じて格差が拡大した。
非正規雇用が増えた背景として、大企業製造業を中心に国際競争力強化のため人件費コストの削減を優先したこと。また生産性の低いサービス産業も、低賃金の非正規雇用労働者を積極的に採用したことなどを取り上げている。
白書が格差問題を取り上げたことは意義がある。だが、その是正策と、経済や社会への重大な影響について説明が足りない。
低所得の非正規雇用労働者はなかなか結婚できない−という厚生労働省の調査がある。非正規雇用の独身者が結婚する割合は正規雇用の独身者の半分程度という“非婚”の実態は悲劇である。
それが少子化社会をもたらす。低所得・単身者の増加は医療や年金、介護など社会保障の適切な費用負担を困難にし、やがては生活保護の受給を増やしかねない。貧困対策の重要性にもしっかりと言及すべきだった。
政府として、自民党時代の労働・雇用政策見直しが必要だ。派遣の自由化など行き過ぎた規制緩和の責任は重い。今後は企業が長期雇用を増やし人材育成が行えるよう、税制や金融面など政策的に側面支援することだ。
菅直人首相は衆院予算委員会で「雇用拡大を通じて経済成長をはかりデフレから脱却する」と述べた。新成長戦略の早期実行と、前国会で継続審議となっている労働者派遣法の改正が急務である。
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