明治三十年といえば、金を通貨価値の基準とする金本位制が実施され、年末には伊藤博文に三度目の組閣命令が下っている。小説家の宇野千代や漫才師の花菱アチャコ、婦人運動家の加藤シヅエらが生まれたのもこの年だ▼古谷ふささんもこの年に生を受けた。東京都内で最高齢となる百十三歳のはずだった。ところが、住民登録のある杉並区の職員が確認すると、区内には居住せず所在不明になっていることが分かった▼同居しているとみられていた七十九歳の長女は「弟と一緒にいると思っていた」と語り、職員が飛んでいくと、弟が住民登録をした千葉県市川市の住所はアパートが取り壊され、更地になっていた。「真夏のミステリー」だ▼都内で男性最高齢の百十一歳とされた足立区の男性が、三十年以上前に死亡していた可能性が強まり、自治体が一斉に確認に走った結果、八王子市や名古屋市など各地で、所在が分からない百歳超のお年寄りが次々と確認されている▼百歳を超えた老人が、黙って家を出ることはまずないだろう。家族が年金の受領を続けるため、亡くなっても生きていることにしているケースがあるなら悪質な詐欺だ▼長寿大国といわれる日本で相次ぐ「消えた超高齢者」。地域の中で忘れられた老人は、どれだけいるのだろうかと考える。「無縁社会」の現実に、真夏なのに肌寒くなってきた。