全身を覆うイスラム教徒のブルカ。公共の場所での着用を法的に禁止する動きが欧州各国で相次いでいる。イスラムとの対話を模索する国際社会にあって、欧州らしいメッセージと言えるのか。
「フランスに全身を覆うベールが存在する場所はない」−。強い指導者を標榜(ひょうぼう)するサルコジ大統領が就任以来主張していた考えを立法化したのが、仏国民議会(下院)で採択された「公共の場で顔を隠すことを禁止する法」だ。九月に上院で採択されれば、欧州で初めてのブルカ規制法になる。
衣服への直接の言及はないが、「公共の空間」での顔を隠す衣服着用を禁じており、事実上ブルカや同種のニカブを排除する内容になっている。違反者は百五十ユーロ(約一万七千円)、着用を強制した者は最高三万ユーロ(約三百四十万円)の罰金刑に処せられる。
ベルギーでも同趣旨の法案が下院で可決されており、ブルカ規制の流れは他の欧州諸国にも広がる様相を見せている。
欧州では、米中枢同時テロ以降、マドリード、ロンドンの同時テロをはじめ、オランダのファン・ゴッホ監督殺害事件、デンマークのムハンマド風刺画事件などが相次ぎ、イスラム過激派のテロに対する不安は高まる一方だ。
イスラムとの共存問題は、統合を進める欧州連合(EU)が抱える重い課題だ。EUとしての対応も試みられているが、信教の自由や政教分離、人権問題など、国の在り方も絡み、現実の対応は各国各様だ。厳格な世俗主義を掲げるフランスを統合型社会とすれば、オランダのように、文化多元主義的な社会を容認しようとする国もある。
懸念されるのは、欧州の多様な取り組みが理解されないまま一律な反イスラム的メッセージが世界中に広がり、ただでさえ緊張の度合いを強めている西欧対イスラム関係に悪影響を及ぼさないか、という点だ。国際社会は、米中枢同時テロ以降吹き荒れた過激な原理主義的対立の時代を超えて新たな共存の在り方を模索する協調の時代に入っているはずだ。
ブルカを着用しているイスラム女性は欧州では極めて少数で法規制は、排外主義的世論を取り込む国内向けの政治的思惑とも指摘される。行政諮問機関である国務院や国際人権団体からも法的、人道的な懸念が表明されている。「イスラム対話」の流れに沿う欧州らしさを示すべきではないか。
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