原爆死没者を慰霊する広島の平和記念式典に米国のルース駐日大使が出席する。国連の潘基文事務総長も長崎と広島を訪問する。いずれも初めてのこと。核廃絶に希望が持てる、心強い動きである。
「第二次大戦のすべての犠牲者に敬意を表するため」。クローリー米国務次官補はルース氏の式典出席の目的をこう説明した。
原爆投下によって日本の本土決戦が回避されて終戦が早まり、米兵と日本国民の多くの命が救われた−。米政府の変わらぬ見解であり、ルース氏が今回、謝罪することもないようだ。
オバマ大統領は昨年のプラハ演説で、大戦中の原爆投下に言及しながら、米は核軍縮を目指して「行動する道義的責任がある」と述べた。
ルース氏の広島派遣は、オバマ政権が国際社会に核軍縮・不拡散の加速化を訴えるとともに、米は指導的役割を果たすという決意表明になる。
オバマ大統領は訪米した秋葉忠利広島市長の訪問要請に対し、「行きたい」と答えた。十一月にはアジア太平洋経済協力会議(APEC)出席のため来日する。米国内の政治状況や世論から可能性は高いとはいえないが、広島、長崎への訪問が実現するよう願う。
国連の潘事務総長は五日に長崎を訪問、翌六日には広島の式典に臨みあいさつをする。被爆者と対話も予定している。
訪日前の日本記者団との会見では「被爆者が生きている間に核兵器がなくなる日をみられるよう、期限を決めて核軍縮に取り組むべきだ」と述べた。広島ではいっそう明確に各国の指導者に訴えてほしい。
英国、フランスの政府代表も初めて広島の式典に出席する予定だ。ロシアと中国は過去に参加しており、これで核保有五大国がそろう。今年の「原爆忌」は例年にもまして深い意義を持つ。
世界の核兵器の95%を保有する米ロ両国が新しい戦略兵器削減条約に調印するなど、核軍縮には進展がみえる。一方で北朝鮮やイランは核開発を続け、核拡散防止条約(NPT)体制は揺らいでいる。
日本は核兵器の悲惨さを直接体験し、語り伝えてきたが、米の「核の傘」の中にいるという根本的な矛盾も抱える。
曲折を経ながらも軍縮機運が高まる中で、日本は非核三原則を堅持して、被爆地から核廃絶を呼び掛けていきたい。
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